第16話 隣に君がいる

朝の登校時間、校門前に現れたふたりの姿に、一瞬で空気が変わった。

月瀬愛華と進堂蒼馬が並んで歩くその光景に、生徒たちの視線が集中する。


「え、え、ちょっと待って……あれ……」

「進堂くんと……月瀬さん?」

「マジで付き合ってんの!?」


ざわざわとしたざわめきが波紋のように広がる中、愛華はうつむき加減で制服の袖をぎゅっと握った。


「や、やっぱ目立ちすぎかも……」

「……いいじゃん。オレは堂々としたいし」

蒼馬は小さく笑って、さりげなく愛華の肩に手を置いた。

その仕草に、周囲からは一斉に「ひゃあ……」というような、感嘆にも似た声が漏れる。


教室に入ると、その視線はさらに強くなる。

ガヤガヤとした雰囲気はいつの間にか静かになり、目が合うたびに視線を逸らされる。


「みんなに見られるよ…」

愛華がつぶやくと、隣の席の結衣がにこっと笑って、「だね…、でもいいじゃん。堂々としてなよ」と軽くウインクをしてくれた。

その一言が、何より救いだった。


昼休み、教室の扉が開くと同時に、また空気が動いた。


「……え、進堂くんが来た」

「まさか、教室まで?」

「堂々すぎるでしょ……」


ざわつく教室の中、蒼馬はまっすぐに愛華の席へと向かう。

その手には購買のパンとジュース。周囲を一切気にすることなく、当然のように彼は愛華の隣に腰を下ろした。


「愛華。今日、一緒に食べるって言ったよな」

「う、うん……」

返事をする愛華の声は、小さく震えていた。


「まさか、進堂が彼女の隣でお昼なんて」

「これ、本気じゃん」

「てか、月瀬さんって彼女感ある……羨まし」


聞こえてくる声に、愛華の顔が熱を帯びていく。


「ん、チョコついてる」

「えっ……」

顔を近づけた蒼馬の言葉に、愛華が驚いて見上げた瞬間——


「……ウソ。ついてない」

ニヤッと笑う彼に、愛華はぷくっと頬を膨らませた。


「もう……!」

けれど、その胸の奥は不思議とあたたかくて。

たとえ見られていても、今この瞬間が幸せだと、心からそう思った。

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