第14話 結衣とのひととき

夕暮れの教室には、文化祭の準備の疲れがほんの少し残っていた。窓から差し込む柔らかなオレンジ色の光が、机の上のちらかったポスターや装飾を優しく照らす。


「ねえ、愛華。これ見てよ、うちのクラスの屋台のメニュー。もう少しで完成しそう!」


結衣が嬉しそうにプリントを広げる。


「わあ、すごいね。みんなで協力してるんだね」


愛華は疲れたけど満たされた笑顔で答えた。文化祭の準備は忙しいけれど、こうして友達と過ごす時間が、心の栄養になっている。


「ねえ、ちょっとお菓子でも食べない?昨日の差し入れのクッキーあるんだ」


結衣はリュックから小さな袋を取り出し、差し出す。


「ありがとう、結衣。こういうときにちょっと甘いもの食べると、ほっとするよね」


二人でクッキーを分け合い、笑顔が自然とこぼれる。


「蒼馬先輩も、今日の文化祭の準備で忙しそうだったよね」


「うん、でもいつも気にかけてくれてる。先輩がいると心強いんだ」


愛華の声は少しだけ照れくさそうだった。


「そうだね。二人のこと、クラスのみんなも気づいてるみたいだけど、でも秘密にしてるっていうのがまたいいよね」


結衣がくすっと笑った。


「そうだね。私たちだけの秘密」


ふたりはそんな言葉を交わしながら、これから迎える文化祭本番への期待と不安を少しずつ胸に抱いていた。


「愛華、疲れたら無理しないでね」


結衣の優しい言葉に、愛華はうなずいた。


「ありがとう。あなたがいてくれて本当によかった」


その言葉に結衣も笑顔で答えた。


教室には、文化祭のざわめきと友達との温かな時間が静かに溶け合い、二人の絆がさらに深まっていくのを感じさせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る