第13話 甘いソフトクリーム

爽やかな青空の下、動物園の入り口をくぐると、木漏れ日が二人を包んだ。

愛華は蒼馬の隣で、興味津々に周りを見回している。


「ほら、あのコアラ見てよ。すごく眠そうだな」

蒼馬が笑顔で指差すと、愛華も顔を近づけて覗き込んだ。


「かわいい……ずっと見ていたくなる」

優しい声がふわりと風に乗った。


ふたりで手をつなぎながら、のんびりと園内を回る。

ペンギンの水槽の前では、ペンギンたちが元気よく泳ぎ回る姿に笑いがこぼれた。


「愛華、写真撮るぞ」

蒼馬がスマホを取り出し、二人で笑顔のセルフィーを撮る。


「いい感じに撮れてるよ」

蒼馬が画面を見せると、愛華は思わず顔を赤らめた。


――


動物園の小さなベンチに座ったふたり。

愛華はソフトクリームをそっと口に運び、甘さにうっとりとしていた。


その横顔をじっと見つめる蒼馬の瞳は、いつもより少しだけ優しく、そして熱を帯びている。


「なあ、愛華……」

彼の声が、いつもより少し低く、静かに耳に響いた。


ふと、蒼馬が口元に手を伸ばし、指先でそっと愛華の唇の端を撫でる。

その指の温もりに、愛華の心臓は跳ね上がった。


「ソフトクリーム、口についてるぞ」


ゆっくりと言われた言葉に、愛華は一瞬顔を上げた。

その瞬間、蒼馬の視線が愛華の唇に重なり、ゆっくりと距離を詰めてくる。


「え……」

息を飲み、目を見開く。


蒼馬の唇がそっと触れたのは、まるで羽が触れるかのように柔らかく、優しかった。


ふたりの間に時間が止まったような瞬間。


愛華の胸の奥から、熱い何かが押し寄せる。

鼓動は激しく、耳元にまで響いている。


「ドキドキしてるの、わかるよ」

蒼馬の囁きが、甘く肌を撫でる風のように感じられた。


キスは短く、でも十分に二人の気持ちが伝わる、特別なものだった。


唇が離れると、愛華はまだその余韻に浸りながら、そっと目を閉じた。


「先輩……」

小さな声が漏れる。


蒼馬は笑みを浮かべて、手をぎゅっと握り返した。


「これからもずっと、大事にする」


その言葉に、愛華の頬は真っ赤に染まり、自然と笑顔がこぼれた。


午後の柔らかな光の中で、ふたりの時間はゆっくりと、甘く流れていった。


「なあ、愛華」

蒼馬がふと顔を近づけて、小さな声でささやく。


「今日は、本当に楽しいな」


愛華は恥ずかしそうに目を伏せながらも、ふわりと笑顔を浮かべた。


「私も、先輩と一緒だと時間があっという間に感じる」


蒼馬はそっと彼女の髪を撫でて、頬に柔らかな手を添える。


「そう言ってもらえると、嬉しいよ」


二人の距離が自然と縮まり、ほほが触れ合うかと思うほどに近づく。


「……もっと、ずっと一緒にいたいな」


蒼馬の言葉に、愛華の心はじんわりと温かく満たされていく。


小さな動物たちの鳴き声や、遠くで笑う子どもたちの声も、今はふたりだけの世界のBGMのように感じられた。


愛華はそっと蒼馬の胸に手を当て、彼の鼓動を感じる。


「先輩のこと、ずっと見ていたい」


彼女の言葉に、蒼馬は優しく微笑み返し、そっと彼女の手を握りしめた。


ふたりの間に流れる時間は、これからの未来を静かに約束しているようだった。

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