第12話 みんなの視線

告白の秘密は、まだ誰にも知られていなかった。

けれど、教室の空気は少しずつ変わり始めていた。


昼休み。クラスメイトたちのささやき声があちこちで聞こえる。

「最近、進堂先輩と月瀬さん、よく話してるって本当?」

「なんか、二人だけの秘密があるみたいだよ」

「教室の雰囲気もなんだか違う気がするよね」


その視線に愛華は胸がぎゅっと締めつけられ、自然と視線を落としてしまう。


「愛華、大丈夫?」

隣の席の結衣が心配そうに声をかける。


「うん、ちょっと気になるだけ」

でも、その言葉の裏に隠した不安は大きかった。


一方、蒼馬もまた教室のざわつきを感じていた。

廊下で誰かがちらりと見ているのが分かる。


「守らなきゃ、愛華を」

そんな思いが日に日に強くなっていた。


放課後。二人は図書室で待ち合わせた。


「最近、みんなの視線が気になってる」

蒼馬が切り出す。


「私も……教室にいると、なんだか落ち着かない」

愛華が答える。


「お前は変わらず、俺の大事な人だ」

蒼馬は真剣なまなざしを向ける。


「ありがとう、先輩」

愛華は小さく微笑んだ。


それでも、二人の心には小さなすれ違いがあった。


「先輩は、私のこと本当にわかってくれてるのかな?」

愛華は自問した。


「愛華にはもっと信じてほしい」

蒼馬も葛藤していた。


帰り道。愛華は結衣に思わず弱音を吐く。


「みんなの視線が怖いよ……」


「大丈夫、愛華は愛華だよ。私もずっとそばにいるから」

結衣の言葉に、少しだけ救われた気がした。


秘密はまだ続く。

だけど、二人の距離は少しずつ確かなものになっていた。

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