Episode1 相談

 事の始まりは一人の女性の相談からだった。

 女性の年齢は四十代半ばから後半くらいで、娘が一人と息子が二人いるそうだ。

「息子の様子がおかしい気がするんです。」

 女性はそう口火を切った。

 なんでも、高校三年になる息子の様子がなんだかおかしいという。

 あるときは何もないところに話しかけ、見えない何かと親しそうでもあり、脅されているようでもある。またあるときは、鏡や窓を嫌い覆いをかけたりカーテンを閉め切ったりしてしまう。

 受験のストレスからノイローゼになってしまったのではと心配したが、見ているとそうでもないような気がする。

 確かに、「何か」がいる気がする。

 と、いうのが女性の話だ。


 この相談を受けたのはとある神社の宮司。神社は湖の上にポツンとあり、大きくも小さくもないが、県内では縁結びのパワースポットとしてちょっと有名。宮司の名を香取 青かとり あおという。年の頃は三十代半ばほど。とくに善人でもなければ悪人でもないが、面倒ごとはなるべく避けたいタイプ。

 面倒ごと、やっかいごとはなるべくなら避けたいが、仕事柄どうしても持ち込まれる相談というものがある。

 今回の件に関しては、「思春期のせいですよ」と言ってお帰り頂きたい気持ちもあったが、どうもそうはいかない雰囲気だった。

 女性の顔は明らかに疲弊していた。

 口で説明するよりも、息子の様子は異様なのだろう。

「受験勉強で大変だろうとは思いますが、一度本人を連れてきてみてください」

 そう言って、その日は女性を帰した。

「あぁ、もし良かったら、橋の手前に喫茶店があるので是非お寄りください。コーヒーでも飲んで、一息つかれるとよろしいでしょう」

 少しだけ、妹の本業にも貢献してやろうと、そう付け加えた。それに、この母親にも少し休息が必要だろう。

 湖の上にある神社へ続く橋の手前には、青の妹が喫茶店を営んでいた。

 場合によっては、妹が「やっかいごと」を片付けてくれるだろう。そんな算段もあった。

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