憑依
理唯
プロローグ
大学受験を控え、慌ただしくも何でもない日常を過ごしているはずだった。気がつくと、日常の歯車が狂っていた。その違和感の中で僕は、
彼女曰く、それが視えるからといって、良いことがあるわけではない。かといって、悪いことがあるのかといわれるとそうでもない。なかには、うらやましいなんていう変わり者もいれば、やたらとそれが視えると吹聴する人もいる。が、そんな奴は「思春期をこじらせてる残念な奴」らしい。
彼女にとって「視える」ことは、良くも悪くもないことで、街で人とすれ違うのと何ら変わりないことだった。
視えてしまうそれが、呪うとか、災いをもたらすとか、何か特別なものとして語られることもあるが、生きてる人間にできないことが死んだら急にできるようになるわけがない。稀に悪いものもあるけれど、そういったのは、大概生きてるときもそういう奴だったのだ。
当然、善人だったのに変節する奴もいる。
生者の世界と、そうそう変わりはしない。きっかけさえあれば、簡単に悪に転じることもある。そういうことらしい。
彼女はよくこう言う。
「人間なんてそんなもんだ」
さて、柊木 翠という人について、もう少し詳しく説明しよう。
一応、女性。少々特殊な家に生まれ、少々特殊な体質。日当たりの良い、静かな喫茶店のオーナー。性格は、良くはない。かといって、悪人でもない。つかみどころもない。
彼女がオーナーを務める喫茶店は湖の畔にあって、ごく近くには彼女の実家があった。簡単にいえば神社。というか、それ以外に説明のしようもない。湖の上に架かる橋を渡った先にあるちょっとした観光神社だ。宮司は彼女の兄が務めているらしい。
そんな彼女が、初めてそれが視えていると区別がついたのは、5つか6つの頃だったそうだ。以来、頭がおかしいと思われるのも癪なので、「思春期をこじらせてる残念な奴」とは可能な限り距離をとって生活してきた。「あえて言わないこと」、これを守っていれば大概のやっかいごとは避けられる。
そうやって、ぬるっと学生時代をやり過ごし、今は喫茶店のオーナー。ちょっとした観光客を相手に、ぬるっと商売をしている。ぬるいコーヒーを飲みながら。
とはいえ、どこで聞いたのかやっかいごとを持ち込んでくる人間がいる。なんせ実家が神社。ほぼ敷地内。そして、ちょっと田舎だ。人の口には戸が立たない。
いつの間にか、持ち込まれたやっかいごとを片付けるのも、彼女の仕事に含まれるようになった。
かくして、やっかいごとを背負ってしまった僕が、「翠さん」と出会うことになった。
それが、今回のお話。
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