Episode2 喫茶Kawasemi
湖の上という辺鄙な場所に
「ちょっと息抜きに出掛けよう」
幼なじみの
助手席のドアを開け、車から降りると、ゴツゴツとした砂利の感触が足の裏に伝わり、春香はやたらとそれが不快に感じた。「観光客も来るんだから、アスファルトくらい敷けば良いのに」と、そんな余計なことが頭をよぎる。
「はるくん、お店の入り口あっちだよ」
そう言いながら緑は店の方向を指した。春香がそちらに視線をやると、そこには白を基調にした海外風の建物があった。
「……なんか、思ったのと違う」
春香のつぶやきは、緑が車のドアを閉める音にかき消された。
「え? なんか言った?」
「ううん、なんも」
「そう。じゃ、行こっか」
ガチャっと車の鍵が閉まる音がする。コクリと頷き、春香は緑の後ろに続いて歩き出した。
「今日は、お客さんが少なくて静かね。平日だからかしら」
「ねぇ、そういうこと言うと忙しくなるから、やめて」
翠はカウンターで頬杖をつく女性をチラリと見て言った。翠とは母親ほど歳の離れたその女性は斎藤 しずといって、喫茶Kawasemiでパートとして働いている。
「しずさん、ケーキ食べる? コーヒーも入れてさ」
「あら、いいの?」
「売るほどあるので」
そんな軽口を叩いていると、カランと入り口のベルが音を立てた。
「ほら、言わんこっちゃない」
「もう、翠さん」
たしなめるように言うと、しずは入り口に向かって「いらっしゃいませ」と声をかけた。
入ってきたのは青白い顔をした青年と、その青年と同じ年頃の女性の二人連れだった。
「あらあら、あなた、顔色が悪いわね。それじゃあ、こっちのお席にどうぞ」
青年をカウンター席に案内しながらしずが言う。
翠はしずが案内した席に、コースターと水、それから使い捨てのおしぼりを出した。
「メニューはこれね」
言いながら翠はメニューブックを差し出す。受け取ったのは女性の方で、青年は終始うつむいている。
(あぁ、何だかやっかいなことになりそうだ……)
うつむく青年を見ながら、翠はそんなことを思った。
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