第5話

 ――昼休み、いつものように教室の窓側で澪と弁当を食べていると。


「ん〜、相変わらず雪城さんと仲いいねぇ、蒼真くん♪」


 ふわりとした声が、俺たちの間に割り込んできた。


 振り返ると、そこに立っていたのは――

 明るい栗色のショートボブに、大きな瞳。

 そして、誰にでも自然に甘えるような小悪魔スマイルを浮かべた少女だった。


「……あっ」


「ひっさしぶり〜、蒼真くんっ♡」


 勢いよく腕を絡めてくるその女の子は、白河天音しらかわあまね

 ――俺の、幼なじみだった。


「ちょ、天音!? なんでここに……!」


「え? 言ってなかったっけ? この春から、翠嶺に編入してきたの♪」


「いや、初耳だけど!? びっくりした!」


「ふふ、ビックリ顔も相変わらず可愛いね〜」


 俺の腕に自分の体をぴったりくっつけて、ケラケラ笑う天音。

 懐かしいけど、昔より明らかに距離感が近くなってる気がする……!


「……ちょっと」


 隣で、**明らかに“空気が変わった人”**がいた。


「あなた、誰?」


「白河天音って言いま〜す♪ 小学校の頃からの蒼真くんのお友達で〜す♡」


 笑顔でぴったりくっつきながら、俺の名前を強調する天音。

 対する澪は――完全に引きつった笑顔を浮かべながら。


「“友達”? ……それにしては、距離が近すぎないかしら?」


「あれぇ? でも幼なじみだもん♪ これくらい、普通じゃない?」


「……“普通”って言葉、便利よね」


 空気が……空気がヤバい。


 俺は、まるで爆弾を両手に抱えたような感覚で、2人の間に挟まれていた。


「ねぇ、蒼真くん」


 ふいに、天音が俺の耳元で囁く。


「覚えてる? 小学生のときさ……“将来、お嫁さんにしてあげる”って、言ったよね?」


「ぶっっ!!?」


 口に含んでたお茶を盛大に噴いた。


「な、なななな……なにそれ!? そんな約束、覚えてないけど!?!?」


「あれ〜? わたしはちゃんと覚えてるよ? ねぇ、生徒会副会長さん、そういう約束って……どう思う?」


 天使のような微笑み。けれどその裏に、確実に悪魔が潜んでいた。


「……古すぎる約束って、賞味期限切れてると思うけど?」


 笑顔で返す澪。

 けれど、その指先はぐぐっと、弁当箱のフタを押しつぶしていた。


(誰かこの修羅場止めてくれ)


 俺のささやかな平穏は、小悪魔幼なじみの登場により完全に崩壊したのだった。


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