序章 怪異の始まり




一階に下り、キッチンへ向かうと、母親が背中を向けて、朝食の準備をしていた。


「母さん……!」


息を切らせている僕に、母親は、やはり背を向けたまま言う。


「あら、優希。今日は、早いじゃない?もうすぐ、朝ご飯が出来るから、顔を洗ってきなさい。」


声は、母親だったが、その話し方は、まるで機械のようだった。


「優希、見て。今日の目玉焼き、上手に出来たわ。」


そう言って、クルリと、こちらを向いた母親の顔は、まるで茹で卵の殻を剥いたように、ツルンとしていて、目も鼻も口もなかった。


その母親が手に持つ皿の上。


二つの目玉が、こんがり焼けていた。


卵なんかじゃない。


人間の目玉が、そこにあった。


皿の上の目玉は、ゆっくりと、僕の方に、視線を向ける。




「早く、食えよ。」




そんな声が響き、僕は、訳の分からない悲鳴のような叫び声のような声を上げ、再び、二階へ駆け上ろうとした。


階段の前までくると、何か異様な雰囲気に、僕は足を止める。


階段の壁に、違和感を感じる。


僕が眉を寄せて、その場に固まっていると、壁がグニャリと歪み、壁の中に、幾つもの口が現れた。


その口は、ゆっくりと開き、そして……




「階段は、静かに下りろ。」




と、一斉に、そう言った。


僕は、もう、声を出す気力もなかった。


両手で頭を抱えると、パジャマ姿のまま、玄関に走り、外へ飛び出した。



いったい、どうしたっていうんだ!?


僕は、頭がおかしくなったのか?!

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怪異奇談 深夜 幻夢 @sin-ya03

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