第1章 親友の片思い

4月も終わりに近づいてきたある日の昼休み。


お弁当を食べ終えた私と陽依ちゃんは、廊下の窓から外の景色を眺めていた。


桜の花はだいぶ散って、そろそろ葉桜の季節。


若葉の緑が太陽の光を浴びて輝いて、眩しい。


さわやかな風が、新緑のみずみずしい香りを運んでくる。


気持ちのいい、穏やかな午後。


「優羽ちゃんは、ゴールデンウィーク何か予定ある?」


「私は塾かな」


「塾? 優羽ちゃん、充分成績いいのに」


「そんなことないよ。理数系は点数あまり良くないし」


「そっか」


ふたりでぼんやり外を見ながらそんな話をしていたら、中庭で男子たちがサッカーを始めるのが見えた。


「……あ、霧谷きりやくん」


陽依ちゃんがつぶやいた。


「どこ?」


「ほら、あの背の高い男の子の隣」


陽依ちゃんが指差した方を見ると、確かに霧谷くんがいた。


私は高1の時に同じクラスだったけど、ほとんど話したことはなかった。


サッカー部に入っていて、レギュラーメンバーで頑張っていることは知っていたけど。


「陽依ちゃん、すぐにわかるんだね」


ここは3階だから、よく見ないとすぐに誰かはわからない距離なのに。


「やっぱり恋の力?」


「えっ!?」


私の言葉に顔を真っ赤にしてうつむいた陽依ちゃんは、まさに恋する乙女という言葉がピッタリだ。


陽依ちゃんは高1の頃から霧谷くんのことが好きで、今もずっと片思いしている。


私がそのことを知ったのは、去年の秋頃だった。


それ以来、私は放課後のサッカー部の練習を見るのにつきあったり相談に乗ったりしている。


「でも、陽依ちゃんすごいよね。高1の頃からずっと霧谷くんが好きなんて」


「え……そうかな……」


「うん。それだけ好きな人がいるってすごいよ。私はそういうことないから」


「それは人それぞれだから、気にすることないんじゃないかな。私だって、気がついたら好きになってたって感じだし」


「そうなの?」


「うん。なんかね、サッカーしてる時のすごく楽しそうな笑顔を見て、何かに夢中になってる姿っていいなって思って、それからいつのまにか好きになってたの」


「そうなんだ」


「でも、優羽ちゃんは結構男子に告白されてるでしょ? いつも断っちゃうのはなんで?」


そう、実は私、高校に入学してから男子に告白されたことが度々ある。


自分ではよくわからないけど、男子からは “美少女優等生” と言われているらしい。


私自身は自分が特別可愛いだなんて思っていないし、成績だって勉強が苦手じゃないからテストの点数が良いだけで、「いい子でいなくちゃ」と思っているわけでもない。


それに、恋愛に関しては正直まだ “好き” という気持ちがよくわからないから、告白されても一度も受け入れたことがないんだ。


「告白してきてくれる人には申し訳ないけど、私は誰でもいいから彼氏がほしいわけじゃないし、本当に好きな人とつきあうのが一番だと思うから」


「そうだよね。やっぱり自分が好きな人に好かれたいよね。私も、今年は頑張ろうかな」


「え?」


「卒業したら、もう会えなくなるかもしれないもんね。だから告白しようかな」


そう言った陽依ちゃんは、今までとは少し違う強い意志を持った瞳をしていた。


「うまくいくといいね」


陽依ちゃんが本当に霧谷くんのことを好きで真剣に片思いしていることは誰よりも知っているから、私は陽依ちゃんの恋がうまくいくように心から願っていた。



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