15 もしもし
ドーナツを平らげると、ピコン、と通知が来た。スマホを見ると、仲良し五人組のグループラインにメッセージが来ていた。送り主はアヤノだ。
『みんな! 元気だった⁉ なんかLINEとかが色々入れ替わっちゃってたらしいよ! ウチはどっかの国の石油王になってたっぽくてマジで焦った笑笑 てかクラスライン見たら大野が謎のアンケート取っててウケる』
良かった、いつも通りのアヤノだ。元に戻ったんだ。
ミコトも嬉しくなってグループラインにメッセージを送ると、次々とメッセージが送られてきた。皆無事に元に戻ったようだ。
しかし、安心したのも束の間、ハルカがグループに送ったメッセージを見て、ミコトは肩を落とした。
『そういえば、花火大会、延期になるんだって。騒動は収まったけど、色々混乱したし、大事をとってのことらしい』
そうか、延期か。それはかなり残念だ。だけど、この騒動の原因が公表されていない今、いつ再発するかも分からない状況の中で花火大会を行うのは皆きっと不安だろう。仕方ない。
だけど、大野くんに電話する必要がなくなってしまった。ああ、今日は大野くんと会えないし電話でも話せないのか、とミコトは気落ちした。まあ、今日はしょうがない。色々あって疲れたし、休もう。
部屋に戻ろうとしたその時、脳内に菱原さんの言葉が甦って、ミコトは立ち止まった。
普段から、自分の気持ちを相手に伝えようと努力する、ということです。
そうだ。わたしは、まだ大野くんに伝えられてないことがたくさんある。今日、自分の身に起こったいろんなことを話したいし、大野くんにどんなことが起こったかも聞きたい。花火大会、やっぱり行きたかったって言いたい。それに――。
ミコトは自分の胸に手を当てた。心の真ん中にずっと抱えている、一番温かい気持ち。
この気持ちを伝えたら、大野くんとはこれまでの様には話せなくなるかもしれない。延期になった花火大会も一緒に行ってくれないかもしれない。わたしは、とても傷つくかもしれない。それが怖い。
でも、伝えよう。だってそうしなかったら、今日みたいにきっと後悔する。
受話器を手に取る。
今日四度目になる電話番号を打ち込む。
発信ボタンを押そうとする親指が震える。
今日色々な人と電話して、電話にはだいぶ慣れたはずだ。しかし、やはり好きな人に電話を掛けるというのは別格である。ミコトの手はすっかり汗でいっぱいになった。
緊張する。でも、電話しないと。
そう、伝えるんだ。言葉で伝えることができるんだから、伝えなくちゃ。
ミコトは深呼吸をして、発信ボタンを押した。
プルルルル、プルルルル。プルルルル、プルルルル。
この待ち時間が永遠にも感じられる。
今日はいろんなことがあったなあ、と、ちょっと感慨にふける。もしかしたら、この電話も、また愉快な国のトップと優秀な通訳官に繋がるかもしれない。
大野くんに今日の話をしたらどういう反応をするだろうか。中々信じられる話じゃないけど、きっと大野くんなら信じてくれる。きっと、それはすごい話だね、って言ってくれる。でも、その人に言いたいことが言えなかったのは悔しかったね、って言ってくれる。
ああ、大野くんと話したいな。
ガチャ、と小さな音が鳴った。
ミコトは息を吸って、今度こそ受話器の向こう側にいるであろう大野くんに向かって呼びかけた。
「もしもし」
間違い電話狂騒局 糸川透 @itokawatoru
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