8 偶然じゃないですね
ミコトは急いでこのことを菱原さんに伝えた。程なくして返信が来た。
『報告ありがとうございます。モロタイ島はインドネシアの中ではそこまで大きくない島です。偶然じゃないですね。これを受けて、ある一つの仮説を立てました。対策本部で今からそれを証明しようと思います。また進展があったら連絡します』
このメッセージでミコトと首相官邸とのラインはひと段落付いた。
中々スピーディーな会話だったな、とミコトは思った。自分が何か発言してからの返信の速さは、さながら本物の大野くんと話しているようだった。そう、大野くんは律儀なのでわたしが何か言ったらすぐに返信をくれるのだ。そういうしっかりしている所があるのも大野くんの魅力の一つである。
ミコトは一旦ソファに腰かけ、一息ついた。お母さんはこの騒動中でも仕事をしているのだろうか。お父さんも、まだ買い物から帰ってくる様子はない。いつもおちゃらけていて頼りのない人だが、果たしてこの騒動には気づいているのだろうか。
二階に上がって、自分の部屋から窓の外を覗いてみる。何人かが立ち話をしている。彼らの表情は少しこわばっている。やはり皆、不安なのだろうか。
そういえば、世界が混乱に陥っている中、花火大会は予定通り開催されるのだろうか。中止しようにも、その連絡を入れることもできない。関係者の人たちは困っているんじゃないか。
きっと花火大会だけではない。この騒動で、色んな人が連絡を取れなくて困っているに違いない。自分のためだけではなく、世界中の人のためにもこの問題を解決せねばならない。自分には今何ができるだろうか。
先ほど、自分はインドネシアの二人が同じ地域に住んでいることを発見した。あのような、謎を解く手がかりを見つけることが自分の役目かもしれない。
そうと分かれば、まずは現状の把握をしなければ。ミコトはノートを取り出し、すらすらと表を書いていった。
「①→大野くん→首相→②、
③→わたしの家→④(LINEを使ってない地
域?)」
とりあえず大野くんの番号の前後の入れ替わり、そして自分の家の番号の前後の入れ替わりを表してみた。誰かに掛けると大野くんに、大野くんに掛けると首相に、首相に掛けると他の誰かに繋がる、といった具合である。
番号を振ったものの中で調べられるものは何だろうか。首相官邸の電話番号を菱原さんから聞いて、その番号に掛ければ、②の人物が分かるはずだ。
また、自分の家の番号に自分で掛ければ、④の人物が分かるかもしれない。
②や④の人物の電話番号を聞いて、またその番号に電話を掛ければ、数珠繋ぎでいつか大野くんに繋がったりしないだろうか。それは流石に無謀か。でも、他にできることも無い。
ミコトは一番手近な自分の家の番号に掛けてみることにした。自分で自分の番号に掛けるというのはなんだか不思議な感じがする。ミコトは電話機の前に立ち、受話器を取ろうとした。
その時だった。
プルルルル、プルルルル。
ミコトが掛けてもいないのに、目の前の電話機が甲高い音を鳴らし始めた。
電話が掛かってきたのだ。
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