6 あなたが現在いる国をお答えください


 エレナさんとチカさんはそれぞれインドネシアのどこに住んでいるのかと尋ねた後に、ミコトは大野くんのラインの存在を思い出した。


 大野くんとは半年ほど前までよくラインをしていたのだが、ある日突然大野くんからメッセージが届かなくなった。ミコトは嫌われたのではないかと不安になり、翌日大野くんに尋ねたところ、パスワードを設定したのだが、それをすぐに忘れてしまってログインすることができなくなってしまったという。それ以来、大野くんはずっとラインが使えず、大野くんとは電話で話すようになったのだ。

 これが、ミコトが電話にこだわる理由である。何ともアホみたいな理由だが、ミコトは大野くんの意外と抜けているところが好きだった。


 しかし、大野くんの番号が首相官邸と入れ替わっている現在、大野くんのラインアカウントも首相官邸のものになっているはずである。ミコトは久しく見たサッカーチームのロゴのアイコンをタップして、メッセージを送った。


『谷本首相、菱原さん、こんにちは。何か進展はありましたか。わたしのLINEは他の誰かとは入れ替わっていませんでした』


 送ってから一分が経った頃に、早速メッセージが返ってきた。


『こんにちは、ミコトさん。菱原です。今、官邸付近にいた者たちを集めてきて、対策本部を設置しました。総力を挙げて原因を究明しているのですが、進展はありません。ミコトさんのラインは入れ替わっていないのですね。双方向で連絡できるのは大きいです。首相官邸の公式ラインを、官邸の電話番号で作っていて良かったです。また何か進展があれば連絡します。ミコトさんは何か気になったことなどはないですか?』


 気になったこと、か。ミコトは少し考えて、先ほどのことを思い出した。


『そういえば、仲のいい友達同士のグループラインがあるんですけど、友達四人のうち二人がインドネシアの人と入れ替わってて、びっくりしました。中々の奇跡ですよね。だからなんだという話ですけど……』


 そう送ると、先ほどよりも速く返信が来た。


『いえ、どんな些細なことでも助かります。なるほど、四人中二人がインドネシアに在住……。もしかしたら偶然ではないかもしれません。この大野さんのアカウントを使って調べたいことがあるのですが、いいでしょうか』


『いいと思います。大野くんは今ラインにログインできない状態なので、後でわたしから言っておきます』


 そう送った後に、ミコトは、半年前までこうやってよく大野くんとラインで話していたな、と懐かしくなった。といっても、今の相手は大野くんではなく菱原さんだが。


 ミコトが大野くんとの嬉し恥ずかしいトーク履歴を見返していると、

『ありがとうございます。ミコトさんと大野さんが所属している二年二組のグループラインを使わせてもらいます』

 と返信が来た。


 クラスラインを使って何をするんだろう、とミコトが疑問に思っていると、早速クラスラインにメッセージが届いた。

 大野くん、もとい菱原さんからのメッセージはこうだった。


『こんにちは、皆さん。今からアンケートを行うので、ご協力お願いします。これは現在起こっている騒動を解決するための重要なアンケートです。ぜひご回答ください』


 トーク画面にアンケートが作られている。それを開いてみると、『あなたが現在いる国をお答えください』という質問が一問あるだけだった。


 この質問はどういう意味があるのだろう。菱原さんがこれを作った意図を把握できないまま、ミコトも一応『日本』と回答した。

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