第2話 プリヤーヌットa.k.a.ホン
いきなり登場した留学生。
いや、情報多いし。俺、ただバイトに行きたいだけなんだけど。どうなってんだよ。でもこの子、可愛いんだよな。大きな瞳とちょっと上を向いた小さな鼻、ぷっくりした唇。肩のところで切りそろえたボブヘアーを青いヘアバンドでまとめている。大きめのTシャツとブカブカのジーンズから細くて黄金色の手足がすんなりと伸びている。陰キャ男子の悠にはあまりにも眩しすぎる存在だった。
「あ、俺、悠でいいっす。悠って呼んで下さい。ええっと、タイから来たチャイカムさんですよね」
あ?俺、なんか変なこと言った? 彼女、ちょっと眉間にシワよってきてないか?でもって、大きく息を吸ったぞ。なんかマズいんかな。
「チャイカムはファミリーネームですね。タイでは普通、相手の名前をファーストネームで呼びますね」
ホンはまるで子どもに諭すような雰囲気で説明を始めた。何なんだ?俺、文化を超えて説教されてる? 外国人から見てもダメ出しせずにおれないキャラなん?まあ、否定はできないけど。
「じゃあ、プリ…ピリ…ええっとプリヤー…プリヤーヌットさんですよね」
え? 彼女、今度は大きなため息をついたぞ。なんでなん?おれなんでこんなにグイグイ責められなきゃあかんの?悠は動揺を隠せなくなった。もう無理だ、俺には国際交流なんてどだい無理な話なんだよ!俺は、やっぱり国粋主義で行くわ。うん。
「プリヤーヌットは私の名前なんですが、ニックネームで呼んで下さい。私のニックネームはホンです。ハクチョウのことですね」
そう言って、ホンはニッコリ微笑んで見せた。
あ、そうだった。自己紹介でそんなこと言ってたよな。タイは名字をあまり使わなくて、もっぱらファーストネームを使う文化なんだそうだが、親しい同士はニックネームで呼び合うから、自分のこともホンって呼んで下さいね、ってそんな話だった。
俺、彼女のあまりの可愛さに打ちのめされて、顔も見られなくてずっと下向いてたっけ。でも、ホンさんはちゃんと俺のこと、覚えていたんだ。ムカッとなったりして悪かった。やっぱ、国粋主義はやめだ。時代はグローバリズムだ。うん。
「そうでしたね。ホンさん、でしたね。失礼しました」悠はそう言いながら、ペコリと頭を下げた。
「マイペンラーイ!」と言いながら、ホンは輝くような笑顔を見せた。
やった…!悠は、何度トライしても開かない金庫の番号をようやく探り当てたような気分になった。
「悠君、何かをずっとずっと見ていましたね。何を見ていたの?」ホンは笑顔のまま、いきなり本題に入った。
「ええっと…俺…」とモゴモゴ言いながら、悠はさきほど70年代風ファッション男が立っていた辺りに目線を泳がせた。男はもういなかった。「あれ?」
「彼にはあまり近づかない方が良いですよ。良くない空気を持っています」
悠はびっくりして固まった。ホンさんも…「見える人」なんだ。
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