第3話 曽爾悠のキャンパス・ライフ
曽爾悠は奈良県にある大学に通う大学生だ。なぜこの大学を選んだか。簡単だ。自宅から通えるからだ。電車に乗って通うような距離の大学にはとても行けない事情が悠にはあるのだ。まあ、たまたま面白そうな学科もあったし。だから消去法で選んだ、というわけでもないんだけど。
教養科目ばかりの1年間を過ごし、2年生に進級した4月からはようやく専門課程だ。とはいえ、バイト以外はほとんど家に引きこもって本ばかり読んでいる悠には、有益なゼミ情報を集める手段などなく、まあ、◯◯先生は就職に強い、とか、XX先生は一流企業に顔が利く、とか、言われたところで、そんな人気のゼミにはそもそも入ろうとも思わないし、入ったところでゼミ生数十名という規模では、悠などモブ中のモブだ。透明人間として4年生まで過ごすなんてゴメンだ。俺だって、陰キャなりのプライドがあるし、陰キャだって大学生活をエンジョイしたい。100回に1回くらいは指導教授に「曽爾君、良いゼミ報告だったねえ」とか褒められたい。俺は褒められて育つタイプなんや。
というわけで、気づいたら曽根悠は民俗学のゼミに入っていた。郡山さくらという女の先生だ。東南アジアの女の幽霊の研究してるらしい。いや、妖怪だったっけ。なんてニッチなテーマなんだ、いかにも研究者ぽいやないか、
なんでも郡山先生は親の仕事の都合で幼少期をタイで過ごしたとか。世話になったタイ人メイドさんがお化け話好きの人で、郡山先生はよくそのメイドさんの話を聴いて育ったらしい。好きが高じて今や東南アジアを歩き回って、怪談の収集をしている。
悠が郡山先生のゼミを選んだ理由は、人気のゼミに比べると、人数が少なくて、いやじつのところ、かなり少なくて、しかも苦手なウェイやパリピ系はいなくて、勉強が好きそうな真面目な女子学生ばかりだったのと、もしかしたら、悠も郡山先生のフィールドワークについていけるかも、と考えたからだ。
実は、悠はタイでやりたいことがある…でも一人で行く勇気がないし、それが正しいことなのかも分からない。だから、できれば郡山先生の意見も聞いて、どうするか決めたいと思っている。
郡山ゼミには留学生が一人いた。そう、それがホンさんだ。タイ出身で4月から大学に編入学した。本当なら3年生なんだけど、単位の都合で2年生としてスタートすることになった。
でも、数あるゼミの中でホンさんが敢えて郡山ゼミを選んだのはなぜだろう。他の留学生は日本文化論とか日本語とか日本史とかのゼミを選んでいるのに。タイ語が通じるからかな、と思ったんだけど、噂では、郡山先生の4年ゼミにものすごく優秀な学生がいて、彼女の助言もあったらしい。
ホンさんはとにかく元気いっぱい!という感じの女性だ。でも陽キャのパリピ、という感じでは全くない。時間のある時はいつも図書館で本を読むか、日本語の勉強をしている。たまに件の4年生と一緒にランチしているのを見かけることがある。4年生は葛城聖という長身の女性で、こちらもこちらでかなりの美人だ。ホンさんとはちょっと違うタイプだけど。ただ、何というか、ちょっと近寄りがたい雰囲気がある。
とまあ、これが俺とホンさんの出会いだ。できるかぎり地味に目立たなく、をモットーにしている俺なので、まさかホンさんが俺のことを覚えているなんて、思っても見なかった。これは…喜ぶべきことなのか? もしかして、俺、モテ期到来?
いやいやいやいやいや…
今そんな妄想で頭の中をモヤモヤさせている場合ではない。そうじゃなくて、重要なことはホンさんも同じモノを見ていたってことなんだ。なぜならさっきの70年代風ファッション男は間違いなく人間じゃないから。
いわゆる「幽霊」ってヤツ。
悠は幽霊が見える。子供の頃から。
そしてこれが悠の最大の悩みだった。
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