6章 次回、主人公死す・・・え、今回!? 

 さて、現在絶賛、クラウンに腹を貫かれている最中だ。

 鋭い刃物で急所を斬られると、痛いを通り越して熱いと感じるとか色々な噂を聞いたことはあったが、ここまでピンチになると脳内物質のせいか、もうそんな感覚すらなくなるんだな。


 戦いは終始こちらが優勢に展開した。ジャストミートの実況が常に戦況を伝えて、戦術の穴を突かれることが無かったので当然と言えば当然だろう。要塞というほど巨大でもないが丘の頂上に作った山城に、3部隊に分けた勇者軍がじりじりと攻め込んでいく。


 周囲に巡らした柵を越えようとすると流石に中から攻撃してきたが、アングルが護衛に連れてきていたベテラン勇者がすでに魔法で雲を呼んで準備しており、何か動きがあると自動で雷が落ちるのだった。後は湧いて出るモンスターを処理しながら、魔王に堕ちた新人転生日本人たちを一人づつ拘束していった。



 しかしクラウンだけは「絶対無敵」の能力を持つだけあって、俺たちの攻撃が全き通じなかった。


「転生してモンスターを倒すのが使命と分かってるんだ、誰だって圧倒的な力で格好よく決めたいと思うだろう。それがなぜ、何も攻撃できないなんてペナルティになるんだ!?」


 誰が考えたって、落ち込むことは分かる話だ、だが俺はツッコミ体質のせいか、最近はその話に疑問を持っていた。


「なあ、モンスターの発生する原因は、俺たちが生前垂れ流していた妬み嫉みなんかの負の感情って話だっただろ?」

 クラウンを含め皆頷いた。死後に能力をもらう際、俺を含め皆簡単な説明を受けている。

「だったら圧倒的な強さで勝ち続けて慢心することも負の感情になって、総量±0になるから簡単に勝てないようにペナルティがきついんじゃないか?」


「ふうむ。圧倒的な勝利は結局戦っていない事と同じことだと? ・・・確かに有り得るな」


 同意するアングル。そしてみな自分たちの経験から、強い能力ほど欠点も大きいという傾向はすでに自覚している。

 ゲームなどで言うポイントの割り振りを同じ数値にするという程度の話だと思っていたのが、実は転生の使命の根本に関わっているという俺の予想に、敵味方の間に小さいものだが動揺が広がる。


「なあ、そこの”千里眼”アングルだって大怪我が元とは言え、修業で能力を修正できたんだ。あんただって、絶対無敵なんて欲張らずにちょっと修正すれば、すぐに仕事できるようになるんじゃないか?」


 腐れ縁のようなもんだが、それなりに長く付き合ってきた知り合いだ。しかも能力の欠点の大きさで悩んでいるのは、誰だって分かる。単純に戦って倒して、めでたしめでたしなんて話じゃない。


 俺は武器を置いて、クラウンを説得するために近づいて行った。そこへ腹に一撃貰ったわけだ。ダガーナイフのようだが、刃渡り何センチとか言う可愛いものではない。というか、これローマ軍で使ってたグラディウスじゃないかなあ?


 しかも「絶対無敵」の能力のせいで、どっちの陣営も敵じゃないと判断されて、どちらからも傷つけられない代わりにどちらも攻撃できないってペナルティじゃなかったか? 俺の抱いたごく当然の疑問だが、どうやら魔王側に闇墜ちしていたい俺が味方のように説得しようとしているため、敵でも味方でもない立場と判断されたらしい。


 いやいや、このクライマックスでそんなことで一人だけ致命傷になってるのかよ。

ああー、なんか昼間なのに視界が薄暗くなってきた。これは意識が遠のいてきたな。


 あれ? 何か3人の婆さんが見える。いやこれは死後の世界で逢った、運命の3女神モイラか。じゃあ俺、また死後の世界に行ってるの? いや、これ走馬灯か?

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