5章ー2

 見た目通りならかなり昔にここに転生してきたらしいアングルは、村の集会所に皆を集めると説明を始めた。


「先ずは、今回の事態を見つけた私の能力を説明しておく。・・・・・・そうだな、これを使わせてもらおう」


 隅に置いてあった紙切れとつけペンを持ってきて、何やら落書きをして傍に置く。そしてカバンから映写機のようなものを取り出して机にセットした。


「さて、映写機を使うのは、昔怪我して能力が使えなくなってから、修業しなおしたからだ。そしてこれから君たちが見るのは、決してカメラの故障ではない」


 壁に映し出されたのは先程落書きした紙切れ・・・なのだが、何故か手前にペン立てが映り、しかも差してあるペンにピントが合っていて、肝心の紙切れに書いている内容はぼやけてよく見えない。


「これが私の能力だ。利点は知らない場所でも視点を徐々に動かしていけばどこでも映し出せる。欠点は見ての通り。見たいものに限って間に何かが入ったり、ピントが合わなかったりで詳細が分からないことが多い」


 うーん。これは見事な実相寺アングル。


「さて今の説明を踏まえて、これを見てほしい」


 アングルが映し出した録画に、顔は見えないが黒ローブの人物が、虚空から出現したばかりらしい見知らぬ誰かに、にこやかに語り掛けるシーンが見える。そして黒ローブの人物はそのまま見知らぬ人物の手を引き、魔王の砦に案内していった。




「いかにも裏切りそうな外見だからって、本当に裏切る奴がいるか!」


 村ではひとしきり悪口雑言を叫んだあと。何だかんだ冷静に作戦会議となった。とは言え、とっとと速攻して攻撃するか、早いところ補給拠点を完成させ簡易な前線基地としたところでの総攻撃くらいしか選択肢もなかった。


「カタパルトでも作って、デカい石を大量に撃ち込んでみては?」

と提案してみたんだが。

「転生勇者の高いフィジカルで、ジャベリンでも投げた方が強いし、そもそも魔法得意な勇者が広範囲攻撃呪文使うのが効果的では」

と、なかなかに説得力のある反対意見で却下された。



 クラウンはここ一月新しい転生勇者を見ていないと言っていたが、アングル曰くほかの街では十日に一人程度のペースで現れており、この町の近所の出現ポイントでも同じ程度のペースと仮定すれば、少なくても2人多ければ4人程度は転生者が現れていておかしくないとのことだった。



 それならば急いで要塞を攻めるべきか。

 いや整地が終わっているのだから、この村の全員で材料を持って行けばすぐに拠点が完成するのでは。

 むしろ拠点の建材よりも補給物資とバリケードの材料を持って行って、最低限の防御力を確保して攻略に進むべきでは。

 しかし今の仮設拠点では、この人数は収容できないのではないか。


 どれもこれも尤もだが現状では適当とも言いづらい策ばかりが挙がり、最終的にはアングルの鶴の一声でとにかく急いでバリケードを組んでから、戦闘組は要塞を攻撃、平行して非戦闘員が拠点をできるだけ戦闘向けに建てるという、墨俣一夜城も真っ青のブラック作戦に決まった。

 いや、そりゃ魔王要塞の攻略と考えれば、要求される建築もその辺の掘立小屋とは数段レベルが違うことは分かるよ。分かるんだけど、建築に全力出した後休憩挟まずに攻略になる可能性が高いことを考えると、俺は何も始まっていない今からすでに極限の疲労を感じるのだった。

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