5章ー急展開
――― 目覚めるのだ、難波英人 ・・・・・・
――― 我らはいわゆる運命の女神モイラ ・・・
――― 本来は管轄が少し違うが、生と死を司っていることは変わらん ・・・・・・
――― その場所は、異世界であって異世界ではない ・・・・
――― 地獄や天国もこの世に繋がった世界であって、全くの別の世界でないのと同じじゃ ・・・・・・
ああ、なんかどんどんあの世での会話を思い出してきた。しかし疑問と言うか、不安になるような単語があった気がするな。
建設中の仮小屋なので、そんなに凝った料理はできない。それでも夏でなければ暖かい料理を食べたいので保温できる鍋にはスープが常に入っており、カチカチになったパンは煮込んでパン粥にしてある。そして今回俺が運んできたのが、村で作られた冷蔵庫だ。
補給拠点の方はまだ整地がやっと終わる程度だが、建築はそこまで時間がかかるものではない。いわゆるプレカット工法のように、すぐに組み立てられるようになっている。どちらかと言えば、地盤を固く締めた後に周囲に堀を作る工程が一番手間がかかるだろう。
恒久的に使うとも思えない補給拠点に、尋常ではないほど準備を整えているが、それもこれも魔王がいると思われる山城の要塞に誰がいるのか不明なためだ。
大体の魔王は街にいるときか屋外で戦っている時に闇墜ちするが、バーサーカーはもとより現実に絶望したタイプもそのまま錯乱して暴れ出すためにすぐ対処できる場合が多い。それが山の上に砦を建築しているとなると、よほど用心深く準備しているか、建築系の能力を持っているかのどちらかだ。
マイナスの精神エネルギーが多く、光が射さない暗闇の範囲が広いほど強力なモンスターが生まれる傾向があり、たとえ戦闘に不向きな能力でも窓のない家を作って引き籠っていれば、それだけでモンスターを量産できる。
後は食料を何とかすればいいわけだが、それこそスローライフしたかった勇者が闇墜ちした魔王がいれば、能力の限界まで魔王仲間を養えるだろう。
つまりはこの要塞の規模と言い、魔王らしき姿を見かけない事と言い、強力なモンスターがしょっちゅう出てくることと言い、中に結構な人数の魔王が引き籠っているのではないかとあたりをつけているわけだ。
そんなわけで建築と輸送の日々を送ること数日。スローライフ村にけたたましい音を立てて早馬が、馬の限界をぎりぎり超えそうな速度でやって来た。
そして一匹の馬から5人ばかりぞろぞろ下りてくる。・・・いや、どうなってるんだよ!? 恐らくは乗り物の負担を減らせる能力の持ち主か、どこかに馬車を収納できる能力か、もしかすると合体の能力を持った勇者が馬をあやつって来たんだろう。こういうある程度でも物理法則を無視できる能力は、何度見てもわけが分からない。
血相を変えて泡を喰いながら村の代表の所へやって来たのは、たしか首都に詰めている”千里眼”の能力の持ち主でアングルという名前だったと思う。
本当に緊急事態らしく、ほかの一行も俺たちが差し出す水にも気付かないくらい慌てている。
「クラウンは魔王だ! あいつ、新しく転生してくる人間に、この世界の悪い部分だけ吹き込んで、直接魔王側にスカウトしてやがった!」
落ち着く暇もないとアングルが叫ぶ言葉に、村は大混乱に陥った。
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