4章-2

 さて今日は、物資を新しく建築中の補給拠点に運ぶ仕事だ。

 街から少々離れた山の上に、戦国時代のような山城がある。これが補給拠点なら格好いいが、残念ながら魔王の要塞だ。我々の補給拠点は、要塞の北西に建造中である。


 言うまでもなく要塞攻略の際に、ここで補給を整えて攻め込むためのベースキャンプとなる場所なわけだが、普通なら街と要塞の間に作りそうな補給拠点を、そこから街道を枝分かれさせ大きく迂回した場所に建設中なのには、こう見えても立派な理由がある。


 この町の勇者の中でも、武闘派の連中の中で戦闘力トップ3。その中の一人サニィの能力と欠点がその理由だ。

 

 サニィは常に前向きにありたいと願っており、前向きに進んでいると強くなっていく。具体的には東と南が前方に設定されているらしく、そっちに進んでいるといわゆる経験点が入っていくのか、だんだんと強化されていく。逆に北と西は後ろ向きと判定されるらしく、徐々に弱っていくことになる。


 で、魔王の要塞というのが、街から見て東北に位置しているわけだ。そりゃ最大戦力の一人を無駄にしたくないから、準備段階でそれを踏まえて適した場所を探すことから始めたというわけだ。よくわからんが就寝前に祈りを捧げて眠ると、次の朝にはその場所が新しい座標0になるらしい。



 普段生活しているスローライフ村から、土木工事を得意としている人間が出張して整地している最中だ。建設予定地の脇に仮の拠点である掘立小屋を作っており、そこには作業中の勇者以外にも、護衛役として戦闘を得意とする勇者が駐留している。なにしろ魔王の砦近くという事で、しょっちゅうモンスターが出てくるのだ。


 もちろん作業している者も、戦闘が好きでないというだけで結構な戦闘力を持っているのだが、雑魚だけではなくかなり強力なモンスターがちょこちょこ襲撃してくる。中には上空から揮発性の毒を降らせる、通称ドラゴン。虫くらいの小さな個体の集団で、つむじ風の様にくるくる巡回しながら衝角のような先端で突進してくる、通称蚊柱。単純明快に巨体が転がって押しつぶしに来る、通称ジョーンズなんて結構厄介なものも混ざっている。



 どうやら今はTOP3の一人、キャロットが詰めているらしい。キャロットは少年漫画によくいる、傷つくと強くなるタイプだ。理論上全身骨折すればデコピンで山を吹き飛ばせると言われている。まあ傷が治れば強さも元に戻るし、重傷になれば防御力も再生力も上がるのでどうやってそんな瀕死の重傷になればいいんだという問題はある。

 

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