3章 閑話
こっちに来たばかりの俺は、自分の名前がエイトだという事はおぼろ気に覚えていたが、その名前の漢字も分からないようなありさまだった。仕事とはいえ、そんな俺に根気よくこっちの常識や暮らし方を解説してくれたのはクラウンだった。
まあはっきり言って、前世日本でのことも碌に思い出せなかったので、先入観なく受け入れられた部分もあれば。説明を理解するのに必要な予備知識がすっかり抜け落ちてていて、噛み砕いて説明してもらうのに何が分からないのかも分からないなんて部分もあった。
こっちで生活できるようになるまで、総合的には他の勇者よりもかなり時間がかかったらしい。
「そういえば、あんたの能力は何なんだ? そんなに使い辛いのか?」
ある程度彼の解説を理解し、俺以外の連中はチートと言っていい能力を持っていると知った後の話だが、俺はそんな質問をしたことがある。奴は自嘲するような笑みを浮かべたが、それでもあっさり答えてくれた。
「みんな一度は考えたような内容さ『絶対無敵』だよ。ただ、願いの内容が大きすぎると判断されたのか、マイナスが大きすぎてね」
「机にメダルの穴がなかったとか?」
「何の話だい? いや実はね、全ての相手に対して敵対するような行動をとれないんだ」
どうもこっちの世界に転生してきた人間は、こちらの世界の住人に対して敵対的な行動をとれないようになっている。武器を振るってもまともに当たらず、魔術を使っても何故か傷つかない。
「じゃあモンスター相手でも攻撃できないと?」
「そうなんだ。ただ向こうも僕のことを敵と認識していないらしく、全く攻撃してこないんだ」
なるほど、敵と認識されないから無敵ということか。平和的な善い話と言いたいところだが、基本はモンスターを退治するためにこっちに呼ばれた俺たちとしては、じゃあどうすればいいんだと己の存在意義に悩む話でもある。
「そんなわけで、これだけプラスとマイナスの振れ幅が大きい僕が、自分があの世でリクエストした能力を覚えているんだから、記憶を全く失っているというとんでもないマイナスを負っている君の能力は、恐らく僕以上に強力だと思うんだけど」
う~~~ん。どうにも信じられんがなあ。でも、記憶を失ってまっさらで転生することが能力ってのもおかしいのかなあ?
などと当時の俺は考えていたが、数年この世界で過ごして、何回かピンチに陥っても秘められた力の覚醒とかそういうイベントは無かった。流石に昔の漫画の「イヤボン」展開みたいにはいかないか。
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