2章-2
俺が普段住んでいるのは、街ではなく山一つ越えた開拓村のはずれだ。
切った張ったが嫌なのでスローライフをしたいという連中が集まって、高度な農業と手工業製品を生産するよくわからない場所になっている。
逆に積極的にモンスターの駆除をしない人間が集まっているので、俺も隅の方にご一緒させてもらっている。だがだからと言って農業や工芸を手伝えるわけではないので、製品を町に運んで原料や他の物資を持って帰る運送業で貢献しているわけだ。
荷物を山のように積んだ大八車を押して山道に差し掛かる。そう、リヤカーのイメージで引っ張る気がするが大八車は押すものだと、こっちに来て初めて聞いた。普通に引っ張ることも多いんだが、1人で扱う時は押した方が小回りが利くからのようだ。
流石転生したチート職人がいるだけあって、街道も凝ったものだ。一見すればただ石畳を並べているだけのようだが、水はけをよくするためか地下を掘り起こして砂利や砂を敷き詰め突き固めている。その上に敷石をしているのだが、これも薄いタイルやケイカルボードのようなものではなく、厚さ数十センチはあろうかという切り石だ。恐らく先ほどの1立米の切り石を、さらに3枚くらいに割って敷き詰めているのだろう。その上一般街道と、早馬用の高速道をエリア分けしており側溝完備。定期的に街灯や休憩所があるという豪華仕様。
初めて見た時は思わず、
「ローマ帝国か!」
と突っ込んでしまった。実際浪漫街道とか言う通称が付けられているらしい。みんな同じ感想を抱いているようだ。
さて、これだけ至れり尽くせりの街道でも、旅するときには気を抜けない理由がある。別に山賊が出るわけではない。先ほどちょっと話したモンスターだ。
言ってる傍から前方の草むらから、蛇のようなものがすっと伸びてきた。だが蛇ではない。伸びた蛇のようなものに、草むらに隠れて見えない後ろの方から押し出されるように中身が移動して来る。そして最後に残った外皮が蛇の尻尾のようになったのが、するすると縮んで本体に戻って行く。行程を具体的に書くとややこしいが、由緒正しいアメーバの移動法だ。
とは言え、こんな犬ほどの大きさの単細胞生物など、流石の異世界でもなかなか見ない。生前何かのTRPGで見たことはあるが。体全体で包み込んで消化しようとしてくるので、日本人になじみのある通称としてスライムとかハンサム顔とか言われている。後者の意味がよく分からないが、そう呼んでいる世代にとって有名な元ネタがあるのだろう。茶色や黄色のタールのような外見だからだろうか?
言っても全身粘液のような本物のスライムと違い、こいつは外皮を切り裂いて失血させるか、中心に集まっている内臓を槍などで破壊してやれば比較的楽に倒せる。
残念ながら俺は戦闘技能には自信がないので、フィジカルに任せて叩き潰すことにしている。大八車の柄に括りつけている六尺棒のような武器を外すと、先端に釘のような棘が無数に生えている。時代劇で有名な突棒という奴だ。
本来なら罪人を壁にでも追い詰めて抑え込むための武器なのだろうが、今回は大上段から思い切り振り下ろす。先端の棘がまんべんなく外皮を傷つけ、その重量で内蔵に衝撃を与える。スライムに包まれないよう遠距離から落ちてくる、突棒の息つく暇もない連打により、スライムは外皮を貫通し内臓まで無数に空いた穴から体液を流し、力なく横たわっていた。
フィジカルが強化されているとはいえ無呼吸の全力打撃はかなり消耗するので、休憩して息を整えたいところだったが、草むらの闇からもう一体のスライムが這い出てくるところだった。
よろよろと構える俺の眼前に迫るスライムの背後に、ぬっと人影が現れ手に持つ斧を一閃する。首を刎ねたと言いたいが、とりあえず上下半分に二枚卸にされて新たなスライムは一瞬で片付いた。
「余計なお節介だったか? エイト」
軽口をたたくのは、同じ転生勇者のフリーマンだった。
あ、名前は生前の名前をもじったり、能力からとったりして、ファンタジーっぽい気分を出すようにしているだけなので気にしないでほしい。俺が名前すら思い出せなかったら、ニックネームが「アキラ」になるところだった、というのはものすごく気になるが。
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