第1章閑話
しかし、生前ご幼少のみぎりには、ドラマやアニメなどで記憶喪失のキャラクターを見るたび、なぜ日本語は忘れていないのかとか、道具の使い方は覚えているのかとかいろいろ考えていたものだ。
だが自分が同じ身になってみると分かる。脊髄反射でできる行動、つまり無意識にできるくらい身に沁みついた行動は、忘れているようで何時の間にかできている。まあよく考えれば、歩いたり呼吸したりだって無意識でもできるが意識して動き始めることもある。そんな物を全て忘れていてやり方が分からないとか言っていたら、一日・・・いや一時間だって生きていられないだろう。
それによく考えれば、普通の人間は前世の記憶など全くない状態で生まれて育っていくのだ。それと比べれば自分が前世の記憶がないことだってそこまでおかしいことでは・・・いや、この世界では結構な異常事態なんだよな。
こちら世界の一般人は普通に赤ん坊から人生が始まるが、俺たちのように勇者と呼ばれる連中はそれなりに育った状態で、この世界にいくつかある決まった地点に突然現れる。まさに天から降ったか地から湧いたかと、まるで石清水のような表現が似合う出生だ。
そんな特殊な存在のせいか、この世界の勇者たちは前世で日本人だったことや日本での生活、一度あの世に行ってこの世界に行くことが決定し、選別のように特殊な力を得るので希望を聞かれたことなどを覚えている。俺を除いて。
少なくとも俺が知る限りでは、夢枕で一晩中呼ばれて召還されたとかバイクを飛ばしていたらゲートが開いたとか、そんなあの世を経由せずに直接やって来たイレギュラーは見たことがないし噂も聞かない。
そして俺も含めて恐らく全員、こっちの世界のことは何一つ知らない状態でやって来る。一般常識はもとより、言語すらだ。だがこの国では有り難いことに、前世日本人の勇者がごろごろいるので日本語が通じる。噂で聞いた話だが別の大陸では中国語が通じる国や英語が通じる国もあるらしい。まあ俺は外国語に堪能ではないので、そんな冒険をする気はないのだが。
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