スピンオフ短編 「共闘」
カルディア連邦の議場は熱気に包まれていた。
交易路をめぐる協定を結ぶために、各国の使節と議員たちが集まっている。
ローラ・ヴァレンティアは王国の代表として、中央の席に立っていた。
目の前には、強硬な姿勢を崩さない連邦議員たち。
「王国は利益を独占するつもりだろう」「弱き市民を顧みない」――そんな言葉が次々に投げつけられる。
そのとき、傍聴席から一人の女性が立ち上がった。
修道服に身を包んだ彼女は、毅然とした眼差しで議員たちを見据えていた。
「それは違います。私は孤児院で多くの子供たちを育てていますが、王国の援助がなければ彼らは冬を越せませんでした。
この支援は一部の富裕層ではなく、確かに市民を助けているのです」
議場にざわめきが走る。
ローラは、思わず目を見開いた。
(……モニカ!)
かつて自分を陥れた相手。
だが今、彼女は自らの経験と信頼をもとに、王国を擁護していた。
•
会議の後、控室で二人は顔を合わせた。
「驚いたわ。まさか、あなたがここに立つなんて」
ローラが微笑むと、モニカは苦笑して答えた。
「私だって驚いてるのよ。
でも……もう逃げたくなかったの。あの子たちを守るために、私ができることをしたかった」
その言葉に、ローラは深く頷いた。
「なら、あなたと私は同じね。国のため、人のために動くことが、今の私の生き方だから」
モニカの瞳が揺れた。
かつて憎み、嫉妬し、陥れようとした相手。
けれど今は――隣に立つ同志として見えていた。
•
翌日の会議。
再び強硬派の議員が、王国の意図を疑い、協定を妨害しようとする。
その時、ローラとモニカは視線を交わした。
「子供たちの未来を守るために、この協定は必要です!」
モニカの声が響き、孤児院での実例が次々に語られる。
「この協定が示すのは、国境を越えた信頼です」
ローラも続け、王国と連邦双方の利益を示す資料を提示した。
二人の言葉が重なり、会場の空気は少しずつ変わっていく。
ついに、連邦の議長が宣言した。
「……協定案を承認しよう」
会場に拍手が広がった。
•
夜、静かな街の広場で。
ローラとモニカは並んで歩いていた。
「ありがとう、モニカ。今日、あなたがいてくれて本当に助かった」
「私も、あなたと並んで立てるなんて思わなかった。……もう一度だけ、チャンスをくれてありがとう」
ローラは首を振る。
「違うわ。自分で掴んだんでしょ? もう、昔のあなたじゃない」
モニカの頬に、初めて心からの笑みが広がった。
かつての仮面ではなく、本当の彼女の笑顔。
二人は同時に夜空を見上げた。
その空には、国境も過去も関係なく、同じ星が瞬いていた。
――もう、敵ではない。
今度は、同じ未来を見つめる仲間として。
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