スピンオフ続編 「陰謀の影」

協定が結ばれて数週間後。

王国とカルディア連邦の関係は、表向きは順調に見えた。

だが裏では、協定をよしとしない派閥が暗躍し始めていた。


ローラは連邦の大使館に滞在していた。

夜、机に広げられた文書に目を通す彼女の眉間に皺が寄る。


「……やっぱり不自然だわ。交易税の改定案が、協定の内容と微妙に食い違っている」


イリスが心配そうに覗き込む。

「わざと、ですか?」

「ええ。協定そのものを“無効”に見せかけたい誰かがいる」


その時、ノックが響いた。

扉を開けると、そこにいたのはモニカだった。


「……あなたに話があるの」


「孤児院に、武装した者たちが近づいてきてるの。あの子たちを人質にして、協定を潰そうとしているわ」

「なんですって……!」


ローラの胸がざわめいた。

協定を敵視する者にとって、モニカの孤児院は格好の標的だった。

彼女がローラと共に動いたことが、狙われる理由となったのだ。


「私ひとりじゃ守れない。お願い、ローラ様……」


震える声。

けれどその瞳には、逃げずに立ち向かう覚悟があった。


ローラは迷わず頷いた。

「一緒に行きましょう。子供たちを守るのは私たちの責任よ」


夜の孤児院。

炎を掲げた影が迫っていた。

武装した数人の男たちが、門を破ろうとしている。


「子供たちを安全な場所へ!」

モニカが叫び、イリスが孤児たちを裏口へと導く。


ローラは正面に立ち、魔力を解き放った。

「王国の名において――これ以上、好きにはさせない!」


青白い魔法陣が広がり、侵入者たちを押し返す。

しかし敵もただの暴徒ではなく、巧みに魔封じの符を使って応戦してきた。


「……やっぱり背後に組織がいるわね」

ローラが息を整えながら呟く。


その時、モニカが一歩前に出た。

「私が彼らの注意を引くわ。その間に、あなたが決めて!」


「危険よ!」

「でも、私はもう逃げない。あの頃みたいに!」


叫ぶように言い放ち、モニカは毅然と敵に向き合った。

「ここは私の家! あの子たちは私の家族よ! 誰一人、渡さない!」


彼女の声に、子供たちの怯えた表情が希望に変わっていく。

その瞬間、ローラは最後の魔法を放ち、敵の符を打ち砕いた。


閃光が夜を切り裂き、侵入者たちは拘束された。


戦いの後。

孤児院の前で肩を並べる二人。


モニカは大きく息をつき、ローラを見つめた。

「ありがとう……でも、本当は私なんかが一緒に戦う資格なんて……」


「違うわ」

ローラは静かに首を振った。


「あなたがいたから、子供たちは恐れずにいられた。

あなたの声が、この場所を守ったの」


モニカの目から、静かに涙が溢れた。

それはかつての“仮面の涙”ではなく、心からの涙だった。


夜空には、無数の星が瞬いていた。

かつて敵対していた二人が、今は肩を並べて未来を守っている。


「……これからも、一緒に戦ってくれる?」

モニカの問いに、ローラは柔らかく微笑んだ。


「ええ。私たちは、もう“敵”じゃないもの」


そして二人は並んで夜空を見上げた。

その輝きは、過去の傷を超えて、確かな絆を照らしていた。

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悪役令嬢転生 スピンオフ クロネコ @kuroneko4130

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