スピンオフ短編 「再会」
カルディア連邦の首都は、王国とは違う活気に満ちていた。
行き交う人々の服装も言葉も異なり、街角には香辛料と鉄の匂いが漂っている。
ローラ・ヴァレンティアは、外交使節団の一員として、その賑わいの中に立っていた。
すでに王国の“悪役令嬢”ではない。
彼女は、文化と国をつなぐ懸け橋として、新たな役目を担っていた。
「ローラ様、次の会談は午後からです」
随行官イリスの声に頷きながら、ローラは街路を歩く。
ふと目に入った小さな孤児院の前で足が止まった。
そこに――見覚えのある横顔があった。
•
「……モニカ?」
名を呼んだ瞬間、振り返ったその人は息を呑んだ。
修道服に身を包み、子供たちの手を握っていたのは、かつてのモニカ・エインズワースだった。
「ローラ様……」
震える声。驚きと、怯えと、懐かしさが入り混じっていた。
しばしの沈黙。
街の喧騒が遠くに霞んでいく。
「こんなところで……会うなんて」
ローラが先に微笑んだ。
その笑顔に、モニカは堪えきれず涙をこぼした。
•
「私は……許されないことをしました。あなたを傷つけて、居場所を奪って……」
言葉は途切れ途切れで、子供のように震えていた。
ローラは静かに首を振る。
「もう、いいの。過去は消えない。でも、私もあなたも、こうして生きている」
「でも……」
「だからこそ、今をどう生きるかで決まるんじゃないかしら?」
その言葉に、モニカは顔を覆った。
憎んでいた相手に、こうして真っ直ぐな言葉をかけられる自分が、どれほど愚かだったか思い知らされた。
•
しばらくして、ローラは子供たちに微笑みかけた。
「彼女は、きっと素敵な先生ね」
「はい! モニカ姉は僕たちを守ってくれるんです!」
無邪気な声が、夕暮れの空に響いた。
ローラは振り返り、モニカにそっと手を差し伸べた。
「またいつか、国の境を越えて一緒にお茶でもしましょう。
その時は、もう“昔の私たち”じゃなくて、“今の私たち”として」
モニカは涙を拭い、その手をしっかりと握った。
「……ええ、必ず」
夕日が二人を照らす。
過去の影を抱えながらも、二人の心は確かに前へと進んでいた。
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