腕
あの日の晩、友達と飲んだ帰りで、変な時間に目が覚めてしまったんです。
二度寝するのはもったいない気がして、もうそのまま起きておこうと思いました。
それでも眠気自体はかなり残っていて、目を覚ますために洗面所に向かいました。
洗面所の扉を開けて4歩先、左側の壁に40cmくらいの正方形の鏡が置いてあります。
扉を開けて──
いち、にい、さん────
いつも通り、4歩目を歩きながら左を向けば鏡には自分が写るはずでした。
しかし、4歩目を踏み出そうとした瞬間に妙な違和感というか、寒気を感じました。
鏡に腕が写っていました。
明らかに自分のモノではない、腕。
鏡の奥に空間があって、そこに誰かが立っている感じです。
気のせいだと思って、一旦立ち止まって、よく見ました。
色黒の自分とは違い、色白で、中性的な──。
変な言葉ですが、どこにでもいそうな平均的な腕が、そこにはありました。
角度の問題で見えてないだけで、あと一歩進んだら、恐らく私はその人の姿を見ることができます。
正確には分かりませんが、その状態で1分ほど立ち尽くしていたと思います。
鏡の中の腕の正体を確かめるか、否か──。
それを考えていました。
すると、私が見つめていた鏡の中の腕が突然傾きだしました。この時、私は咄嗟に後退りをして鏡から身体を背けました。
「あ、これ、覗かれるな」
そう思ったんです。
その後のことは覚えていません。
確かに、私は何かを見ました。
今となっては、もうどうでもいいです。
───この文章を遺書として遺します。ありがとうございました。
霊階 @O__saki
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