神聖同盟

……………………


 ──神聖同盟



 アルビオン内戦に介入したオストライヒの地上軍はロンディニウム外縁へと至った。


 ロンディニウム解囲に向けた作戦は順調である。


 そう、アルブレヒトにも報告されていた。


「ロンディニウムは間違いなく救援できる。だが、問題はその後だ」


 アルブレヒトはロンディニウム解囲の、その先を見ていた。


「アルビオン内戦に勝利するにせよ、敗北するにせよ、もはやガリアとルーシとの衝突は避けられないことになった。俺たちはこのふたつの赤旗を掲げる蛮族どもを打ち取らなければならない」


 ガリア・コミューンとルーシ社会主義連邦。このふたりの共産圏国家とオストライヒの対立は明白化している。


 アルビオン内戦がどのような結果で終わらろうと、このふたつの国家との衝突が次の旧大陸における戦争になるだろう。


「陛下。私たちはまさにそのふたつに国家によって挟まれています。勝ち目はあるのでしょうか……?」


 ユーディトは心配そうそう述べる。


「考えている。まず、今でこそロムルスやヒスパニアと緩やかな同盟にあるが、我々にはもっとしっかりとした軍事同盟が必要だろう。その問題を解決したいと思う」


「軍事同盟ですか? アルビオンは招かれるのでしょうか?」


「やつらが納得すればな」


 アルビオンには軍事介入の件で貸しを作ったが、まだオストライヒとアルビオンのイデオロギーには違いがある。


「アルビオンの王室にはオストライヒ皇室の血も流れています。できることでしたら、彼らにも私たちの同盟に加わっていただきたいですね。困難な時期であるからこそ、私たち歴史ある血筋のものは力を合わせなければ」


「まさにだ。ユーディト、お前の言う通り、今こそ旧大陸の正当なる統治者たちが手を結ばなければならない」


 アルビオンはこのユーディトの言葉にヒントを得たようだった。


 彼はハルデンベルク宰相を冬の宮殿に呼び出し、そこである指示を下した。


 それはオストライヒ、ロムルス、ヒスパニア、そしてアルビオンの4か国の外相が一度集って話し合うべきことということで、内戦の最中にあるアルビオンからもがイーデン外相がオストライヒに呼ばれて会議に参加した。


 その内容は──。


「神聖同盟、ですか……」


 イーデン外相がオストライヒの外相が示した提案に眉を歪める。


「そうです。かつて国王や皇帝は神に選ばれたものでした。今でも我々が仰ぐ指導者たちはそのときの血筋を引いております。歴史的に見れば、今の指導者たちも神に選ばれたものたちなのです」


 オストライヒの外相はそう言いながらも笑って続ける。


「もちろん今の時代にそのような神権政治をやろうという同盟ではありません。ただ歴史ある王室を有する国家として結束し、旧大陸の歴史を破壊し、伝統をないがしろにする暴徒たちに立ち向かおうというものです」


「軍事同盟ととってよいのですな?」


 オストライヒの外相の言葉にそう尋ねるのはヒスパニアの外相だ。


「そうです。軍事同盟です。それも目的を明白化した」


「ガリアにルーシ、そして各地で勢力を広げる赤旗の暴徒たち」


「その通り。これを結んだ時点で彼らは我々の明白な敵となります」


 ロムルスの外相が言うのにオストライヒの外相がはっきりと告げる。


「これははっきりとした反共同盟です。共産主義の脅威に抵抗するための同盟です」


 神聖同盟の意味ははっきりと示させれた。


 この同盟が締結されれば、もはや後戻りはできない。共産圏との対立は明白化し、彼らと交渉を行って対立を回避することはできなくなる。


「さて、締結に異論がなければ──」


 外相会議でそれ以上の異論は出ず、ついにあることが決定した。


 そう、神聖同盟のその意味をはっきりとさせるために、神聖同盟の名の由来となったものたちがオストライヒ帝国の帝都カイゼルベルクに集まったのだ。


 各国の君主たちが集まったのである。


 アルビオン連合王国の君主ジョージ7世、ロムルス王国の君主カルロ・アルベルト2世、ヒスパニア王国の君主フェルディナント10世。


 警察軍と皇帝親衛軍の将兵によって護衛された彼らは、アルブレヒトの居城である冬の宮殿へと集ったのだった。


「素晴らしい。このように旧大陸の歴史を代表するものたちが集まるとは」


 アルブレヒトはジョージ7世たちを出迎えてそう微笑む。


「今こそ旧大陸にかつての秩序を取り戻そうではないか。赤旗を振る暴徒たちの語る無秩序ではなく!」


 王の中の王たる皇帝アルブレヒトのこの言葉ののちアルビオン、ロムルス、ヒスパニアは神聖同盟に調印し、ここに一大反共同盟が発足した。


 ルーシは外相のラブロフこれを『旧大陸に巣くう忌まわしき専制君主たちの企て』とののしり、ガリアも『反動分子たちの最後のあがき』と評価した。


 そして、これに反応したかのようにガリアはアルビオン内戦に大規模な義勇軍を派遣することを決定し、大陸海峡を渡って義勇軍がアルビオンへと上陸した。


 アルビオン内戦はアルビオンの政府軍とオストライヒ帝国軍に対してアルビオンの反政府勢力とガリア・コミューン軍が対立するという構造になり、内戦の炎はさらに燃え上がった。


 そんな中でロンディニウム解囲が成功。


 ロンディニウムに立て籠もっていた政府軍を救出したオストライヒ軍は、さらにロンディニウム周辺から反政府勢力を駆逐した。


 反政府勢力はロンディニウムを押さえて、正当な政権を名乗る機会を失い、反政府勢力の指導者モズレーはガリアからの支援を受け入れている港湾都市ポートチェスターにてアルビオン人民共和国政府の樹立を宣言。


 自分たちこそが正統な政府であると主張し、内戦での勝利を目指す。


 しかし、神聖同盟の名の下で正式にアルビオンと同盟した国々との戦争を恐れるものたちもいた。アルビオン内戦に介入しすぎれば、オストライヒなどと戦争になるのではないかという懸念がガリア政府内にも出ていたのだ。


 特にオストライヒの膨大な地上軍を恐れるガリア人民陸軍の司令官ジョセフ・ルクレール上級大将は政府に強い懸念を示し続けた。


「アルビオン内戦に本格的に介入するならば、国境の防衛に当たる部隊に動員をかけるべきである」


 ルクレール上級大将はそう主張。


「しかし、現状オストライヒは動員をかけていない。我々が動員すれば、それこそ忌まわしいファシストであるオストライヒに動員の口実を与えるだけでは?」


 サティ第一書記はルクレール上級大将の主張にそう返す。


「オストライヒには動員をかけずとも動員できる皇帝親衛軍と降下猟兵軍がいる。それらによる奇襲攻撃の可能性は、深刻な脅威となるでしょう」


「ふむ……」


 ガリアはこれまで──そう、赤化する以前からオストライヒ帝国に対抗するために要塞を作ったりしてきた。ガリアにとって最大の仮想敵国は常にオストライヒ帝国であった。その地上軍をガリアは恐れていた。


 ガリア人民陸軍となってからも、それは変わらない。


「分かりました。国境警備に限定して動員をかけましょう」


「ご理解いただき感謝します、第一書記」


「しかし、我々の側から無用な挑発などを行うことがないよう厳命を。今はアルビオンでの勝利を目指さなければ」


 こうしてガリアは国境警備を強化した。


 このガリアの動員をオストライヒ帝国は見逃していない。


……………………

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