第3話 4567と4299
モンスターの大軍を
村長によれば小さな村だそうだが、村人たちの手入れが行き届いたいい村だと思う。
「何はともあれ、あなた方は我々の恩人ですのじゃ。ゆっくりしていきなされ」
「「ありがとうございます」」
僕らが村長の後に続いて村の中を歩いていると、女神が話しかけてくる。
「早速だけど、ギルド支部に寄ろうか」
「ギルド支部?」
女神いわく、ギルド支部には僕らのステータスを確認できる場所があるとのこと。
要するにそこでステータスを見てこいということだった。
「ていうか、さっきから誰も女神さまに話しかけませんね」
「当然でしょー、私他の人には見えてないんだから」
女神はそう言って村長の目の前で手を振る。確かに気づいていないようだ。
「私女神だから。すごいから」
「その割には転移の位置ミスってるの面白いですね」
そう。女神はもともと王都(この世界においてもっとも繁栄している都市の一つだそうだ)に僕らを転移させるつもりだったらしい。それが方角的に真逆の小さな村に飛ばされているのだから、女神もたいしたことない。
「うるさいな。ほら、ギルド支部だよ」
言われて顔を向けるとそこには『冒険者ギルド』の文字が。
僕らが中に入ると、中にいた冒険者?らしき人たちが一斉にこちらの方を見た。
なんというか、化物を見つめるような感じである。なんで?
「あのー、ステータス確認をしたいんですけど……」
僕らは恐る恐るその中を進む。受付のほうまで行くと、若い女性が奥から慌ててやってきて、僕らに向かってお辞儀をした。
「み、ミラージュギルド支部へ、よ、ようこそっ」
なんだか怯えてない?初対面なのに?
とりあえずここは
「私たちステータス?の確認がしたくて!大丈夫かな?」
「は、はい。可能でございます」
「ありがとっ!」
蛍が外行き営業スマイルで可愛らしく対応する。言い忘れていたが、ウチの幼馴染は黙っていればかなり可愛い。もっとも、実態は脳筋の戦闘狂だけど。
彼女の対応に少しだけ警戒心を解いたのか、女の人は再度奥へ引っ込むと水晶のようなものを手に持って帰ってきた。見るからにあれを使うのだろう。
「では、ここに手をかざしてください。ステータスが表示されます」
言われるがままに蛍が手をかざす。が、次の瞬間、水晶が光ったかと思うと粉々に砕け散ってしまった。
「あー器物破損したな」
「え?私何もしてないって!」
「どうせ強く掴んだんだろ?これだから脳筋は」
「だから何もしてないって!それに樹も似たようなもんでしょ!?」
「僕は頭脳派だから」
「誰も信じてないよそれ!!」
幼馴染と言い合っていると、ギルドの女性がわなわなと震え始めた。
「み、『導きの水晶』が……は、はわ、はわわわわ」
やばい。これは相当高いやつだったか!?弁償とか言われても転移したばっかりだしお金なんて持ってないぞ……!
僕は思わず身構えたが、彼女は「すみません!」というと再び奥に引っ込んでしまった。なんで壊された方が謝るんだ?
だが疑問を口にする暇もなく、女の人が奥から戻ってきた。その手には先ほどのものより一回り大きく、紫色に光る水晶が抱えられていた。
今度はこれを使えということらしい。
「ど、どうぞ……」
だが、蛍が手をかざした瞬間水晶はまた砕け散ってしまった。
蛍の顔が青くなる。
「え、ええ?なんでぇ!?」
全く、なんて不器用なんだ。こんな不器用な人が幼馴染なんて恥ずかしいよ。
僕がそう思っていると、周囲がざわめき出した。
「お、おい……見たか……?」
「あ、ああ。『導きの水晶』だけじゃなく『輝きの水晶』まで壊しちまったよ」
「や、やっぱり、あいつらが魔王軍を倒したっていうのは……」
なんだ?周囲の目線が今までになく強烈に感じる。やっぱり水晶を壊したのは相当まずいことなんだろうか。謝らないと。
「す、すみません」
だが、僕の謝罪の言葉はギルド職員には聞こえていないようだった。
ガタガタと震えると、首を機械のようにギギッと動かしてこちらの方を見てきた。
「あ、ああああの、申し訳ございませんっ!!」
「え?なんで――」
「すぐに替えを用意いたしますので!!どうかお待ちください!!」
相変わらずなんで壊された方が謝るんだろう?
ともかく、僕らが待っていると彼女が再び奥から姿を現した。両手で抱えるほどに大きな黒い水晶を持っている。今までで一番大きい奴だ。
「こ、これで……どうかお願いします……」
彼女はほとんど涙目である。何がそこまで彼女を駆り立てるのだろうか。
ともかく、また壊したらたまったものじゃない。蛍に耳打ちする。
「おい、次は壊すなよ」
「だから何もしてないって」
幼馴染はむくれながらその黒い水晶に手をかざした。
水晶が発光し――表面にひびが入る。
「ま、まさか――」
だが、ひびが入っただけで何とか水晶は壊れないでくれた。代わりに内部が淡く発光し、ステータスが表示される。
名前:ホタル・トミシマ/Lv.57
STR:4567 INT:19(-100)
DEX:138 CON:287
AGI:191 RUK:128
習得魔法:――
追加スキル:
人としての限界を超越し、STRの上限を突破する。代償としてINTが減少する。
「ふぃじかるあーつ?なにこれ?」
幼馴染につられて水晶の奥を見つめる。ほんとにゲームのステータス画面みたいだ。とはいえ、正直言ってこの世界の平均が分からないので何とも言えない。
「それじゃ、僕も測ろうかな」
とりあえず僕も水晶に手をかざしてみる。どこからか亀裂が入る音が聞こえたが、まあ気のせいだろう。
名前:イツキ・ウオタニ/Lv.57
STR:187 INT:124(-100)
DEX:235 CON:156
AGI:4299 RUK:72
習得魔法:――
追加スキル:
人としての限界を超越し、AGIの上限を突破する。代償としてINTが減少する。
「なるほど?」
よくわからないが、どうやら僕はAGIという数値が高いらしい。確かRPGでいうところの素早さみたいな数値だったはず。確かに足は速いけどね。
「言い忘れてたけど、ステータスは私がいじっといたからね」
宙に浮いている女神がそう言う。なんでも、僕らがうまいこと暴れやすいように追加スキル?とやらを付け加えてくれたらしい。向こうの世界にいた頃よりも力を発揮できるようになっているとのこと。嬉しいぜ。
「4、4567……4299……」
だが喜んでいるのは僕らだけのようで、さっきからギルド職員の様子がおかしい。
目が虚ろになったかと思うと、指を折り曲げて数字を数え始めた。
「いち、に、さん……あれ、よんせんってどれくらいだっけ」
彼女がどうしたのかはわからないが、とりあえず計測はできたのでミッション達成だ。とはいえ、水晶2つも壊しちゃったしな……。
「すみません、水晶は弁償させてください」
そう声をかけると、彼女は我に返ったのか、急に頭を下げてきた。
「と、とんでもございません!!」
「え?いや、そういうわけには――」
「ほ、ほら!あなた方にはこの村を救っていただいたという返しきれない恩がありますので!!どうかお気になさらず!!」
う、うん。そこまで言うならいいのか……?
結局、僕らはそのままギルド支部を出たのだった。本当に良かったのかな?
――なお、ギルド職員はその夜、数字が迫ってくる奇妙な悪夢をみたという。
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