第4話 脳筋、村を後にする

結局村には数日間滞在させてもらった。

なにせお金もなければ着の身着のままで何も食べてない。


なので村長に甘えさせてもらったのだが、なんだか村人からの視線が痛かった。


「やっぱりよそ者だから嫌われてるのかな?」

「かもねー」


幼馴染と会話する。今は鍛錬トレーニング中だ。

蛍のやつは人差し指だけで倒立をしている。彼女曰く、パンチの威力を上げるためには腕への負担が大事らしい。


僕は足に重しをつけた状態でバーピージャンプだ。体感的に片足10㎏くらいの重しをつけている。ジャンプ力が生命線だから重要な基礎トレだ。


僕らの横を頭を下げながら冒険者たちが通り過ぎて行った。

ギルドのトレーニング場を使わせてもらっているから、頭を下げるべきなのはむしろ僕らの方なのだが。


――冒険者といえばそれこそよそ者の僕らを歓迎していないのか、ちょっかいをかけてきたやつもいた。

なんでもここいらじゃ有名な大剣使いだったらしいが、ちょっとじゃれ合っただけですぐに引っ込んでしまった。なんでだろう。


噂をすれば、目の前にその大剣使いがいる。彼は大剣を振り回して訓練をしていたが、僕らに見られていることに気づくとびしっと敬礼してきた。


「お疲れ様です!!日々精進のため頑張っております!!」

「はあ」


なんだか態度がよそよそしいな。脳筋の蛍はともかく、僕はいじめたりしないのに。

まったく、なんで敬礼なんてしているのだろう。


「当然の反応でしょ」


女神さまが言う。というかこの人は気が付いたらいつもいるな。

女神って暇なのか?仕事しろ。


「君らの監視も女神の仕事の内だから」

「何もしてないじゃないですか」

「別にいーの。私女神だから。見守るのが仕事だから」


女神はそういうとあくびをして雑誌を取り出した。

表紙には「いま女神の間で爆ウケ!夏のコスメ特集!」と書かれている。

……女神にもコスメとかあるんだ。


「そろそろ王都に向かった方がいいかもねー」


雑誌を見ながら女神がそう言う。


「王都?」

「そうそう。多分魔王軍の侵攻を勇者あたりが食い止めてるはずなんだけど」

「はあ」

「でも勇者もしょせん人の子だから、多分今頃キャパってるはずなんだよね」


キャパってる、というのは「キャパオーバーになっている」という意味らしい。

言葉遣いがギャルすぎる。


「君らみたいな超人を必要としてるんだよね、世界は」

「別に超人って程じゃないですけどね」


そうだ。これくらい、別にどうということはない。


「んなわけ……はあ、まあいいや」


女神はため息をつくと、雑誌を閉じて宣言する。


「そういうわけで明日王都に向かおう」

「はあ……わかりました」



そんなこんなで翌日。荷物をまとめると、僕らは村の入り口まで来ていた。

村のみんなは手を振ってくれるが、冒険者たちはなぜか敬礼していた。相変わらず、変な人たちだ。


「おふた方、王都へはどう行くのじゃ?馬車は魔王軍が侵攻を始めてから通っておらんぞ。それに道中は危険じゃから……」


村長が心配してくれる。僕は笑って応えた。


「ああ、走っていきますよ」

「!?」


村長が目を見開いて絶句する。隣にいたギルド職員の女性が口を開く。


「あ、あのぉ……王都までは馬車を使っても3日はかかりますよ……?」


僕は幼馴染と顔を見合わせる。なんだ、近いじゃん。


「それなら今日中につくかもね!」

「へ?」


驚くギルドの人をよそに、蛍は僕の方を向いてきた。


「ねー、お姫様抱っこがいいな」

「えー」

「お姫様抱っこ……?」


お姫様抱っこか。腕が痛くなるんだよな……。


「おんぶじゃダメ?」

「ダメ!いいじゃん、馬車でたかだか3日だよ?」

「た、たかだか3日……?」

「うーん……」

「ほら、向こうに帰ったら洗濯とトイレ掃除代わるから!」


洗濯とトイレ掃除か……まあいいだろう。


「仕方ないな」

「……?」


目の前の村長とギルド職員が首をかしげている。

僕は蛍を両手で抱き寄せると、そのままお姫様抱っこした。


「え……まさか……」


ギルドの人がつぶやく。


「こ、このまま走っていく気ですか!?」

「?そうですけど」

「な、何を言ってるんですか!ただでさえ馬車で3日ですよ!!それに人を担いだ状態で走ってたどり着くわけないじゃないですか!」

「と、言われても……」


向こうではよくやっていたことなので大丈夫だろう。

それに女神の追加スキルとやらで身体能力は上昇しているし、むしろ楽だと思う。


「大丈夫ですよ。すぐにつくので」

「す、すぐにって……」


僕らを引き留めようとしたギルドの女性に村長が穏やかな表情で話しかける。


「大丈夫じゃよ」

「で、ですが」

「お前さんだって知ってるじゃろ?この2人がどれだけ凄まじいかを」

「……確かに」


凄まじい?心外だ。別にこれぐらいちょっと鍛えれば行けるよ?

そう思ったが口には出さないことにした。


「おふた方のことじゃから心配はしておらんが、気を付けていくのじゃぞ?」

「あ、はい。ありがとうございます」


僕が頭を下げると腕の中の蛍もつられて頭を下げた。

少しの間だったけどこの村にもお世話になったな。いつか近くに来たら寄ろう。


「では、お世話になりました!」


よし、じゃあせーの。


「【撃走インパクトラン】」


足に力を込めて思い切り地面を蹴る。

直後体が遥か前方に飛び出した。その勢いのまま僕は走り出す。


うん。快調快調。このままなら十分今日中につきそうだな。


「……あの人たちって魔王か何かなんじゃないですかね」

「否定しきれんわい」


飛び出した僕らの耳に、そんな声が聞こえてきた気がした。

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