第4話会議


新しい9位の人が挨拶をしている中、僕は眠気と戦っている。長い…長いよ!これから頑張ります。よろしく!で良いのに何分喋ってるんだよ。どうせ数ヶ月したら序列9位で無くなるだろうに張り切り過ぎだよ。…………………………


「アルスさん。……アルスさん!寝ないでください!」


…………………はっ!寝てた!?周りを見るとどうやら挨拶は終わったようで、僕が一言何か言わないといけない雰囲気だ。えっと、名前は確か……。


「こほん。マリアさん、これから宜しくね」

「はっ、はい!」


マリアさんの挨拶も終わったことだし、今日はもう解散かなと思っていると、進行役を務めているイリアが言う。


「それでは議題に移させていただきます。始めに、来月入学してくる新入生に関しての議題です」


おっと、まだまだ終わりそうになさそうだぞ?隣にいるシリウス先輩にこっそり聞いてみる。


「先輩、今回の会議ってどれくらい時間かかる?」

「え?そうだなぁ。今日は議題が結構多いからあと2時間はかかるんじゃないかな」


2時間!?まじかぁ。ウンザリしそうになるが表情には出さない。答えてくれた先輩に礼を言い、イリアの話に耳を傾ける。


「新入生の中で注目すべき人物をリストアップしました。机の上にある資料をご覧ください」


言われた通り資料を手に取り、適当にページをめくってみる。資料には何処かの国の王族や上級貴族など聞き覚えのある家名が多く記載されている。


「その中でも特に重要そうな4人の人物について話させていただきます」


そう言うと、イリアは指定のページを開くように促し4人について話してくれる。僕は聞き流した。彼らのことは多少知っているし、いいでしょ。


まずジーク・ディランとシャルロッテ・ディラン。彼らはここ、ディラン帝国の皇族で双子の兄妹だ。今年の新入生の中で一番影響力のある2人だろう。


3人目はリーア聖国の巫女シスナ・ティーム。巫女とは聖国で象徴的な存在であり、見目麗しく高度な回復魔法の使い手が選ばれる。その中で今代の巫女であるシスナは歴代最高の回復魔法の使い手と言われているらしい。


最後は平民のクロ・サエキ。数十年ぶりに平民出身がこの学院に通うということで、一部の貴族が騒いでいるらしい。

まぁ、僕から彼らに関わることなんてないから知っても知らなくても関係のないことだ。


「ーー以上です。皆さん、気をつけてください」


皆さんと言いつつ、何故僕の方をずっと見てくるのだろうか?

イリアの説明が終わると、みんな質問や意見を言ったりしている。


「この学院は階級がどれだけ上でも下でも関係ねぇだろ?資料なんか用意して周知する意味ねぇんじゃねえか」

「巫女や平民はその通りだが皇族は別だろ。この大陸では皇帝は絶対だ。その子供とあってはいくら学院での立場は平等と言っても気をつける必要はあるだろう」

「確かに、もう少し情報が欲しいな。誰か皇族のこと知ってる奴いないのかい?」

「おい、双子のこと知っているんだろ?次期公爵さんよ?」


ボーとしながらみんなの会話を眺めてたら全員が僕の方を見てきた。遅れて僕に話を振ってきたのを理解し、口を開く。


「まぁ、一応ね。あとイリアも知ってるよ」

「……はい。ですが私はアルスさんの付き添いで顔を合わせたことがあるだけで、あまり人となりは知りません」


なんだ。イリアに任せようと思ったのに…。


「あー、そうだっけ?えっと殿下達はね、とっても良い子だよ。だからそんなに警戒する必要はないと思う」


ディラン帝国公爵家嫡男である僕は皇族の方とも懇意な間柄である。双子の兄妹も僕によく懐いてくれているただ宮殿に訪れる度にお茶の誘いを受けるので、少し面倒なんだよね。


「もっと具体的に言えんのか貴様は!」


ロベルトさんが怒鳴ってくる。そんなことを言われてもなぁ。


「えー、上の皇子たちと違ってあまりパッとしない?」

「おい、不敬だろ。流石に…」

「まっまぁ、アルスが警戒する必要がないと言っているのだし、皇族のことはいいだろう」


シリウス先輩の発言で殿下達の話は区切りがついたようだ。説明するの怠かったし良かった良かった。


「ああ、平民と巫女についてはどうだ?」

「だから、あとの二人は気にしないでいいだろ?」

「平民は平民だし、巫女の威光もこの国じゃ無いに等しいからな」

「……そうだな」


そして新入生についてこれ以上議論することはないとの結論が出たようだ。もうちょい長引くかなと思ったが予想より短く次の議題に入れそう。


毎年の新入生300人が入学してくる。入学する生徒は15歳の中で魔力の多い順に学院に召喚されるので、大陸中どこに隠れても逃げられず入学拒否はできない。魔力持ちはほとんどが貴族出身で、基本的に階級が高いほど魔力の保有量が多い。


だから平民出身が入学できるはずがないのだ。なのに今年は平民出身が入学してくる。どの国の生まれなのかとか本当は貴族出身ではないのかとか、彼についてもっと議論されるかと思ったのだけど、みんな興味がないみたい。


あと、確か巫女は異能持ちの噂があると聞いたのだけど、その話もなかったな。

まぁ会議を早く終わらせたいし、いいか。次の議論に移るように進行役のイリアに頼み、会議は進む。

数時間後、思ったより早く会議が終わりみんな席を立って部屋から退出していく。


「アルスさん、お疲れ様でした」

「うん、イリアも進行役お疲れ」


僕とイリア以外部屋からいなくなったのを確認してから僕は机に突っ伏した。


「あー疲れたぁ」


彼女は呆れた声で言う


「もうっ、だらしないです」

「いいじゃん。イリアしかいないんだからさ。君以外にこんな姿見せないよ」

「っ!…………………いや、結構だらしない姿、いろんな人に見てますよね」


そんなことより、久しぶりの会議でめちゃくちゃ神経使った気がする。

持ち回りで務めることになっている進行役が今回イリアで本当に良かった。


「スムーズに会議が進んで助かったよ」

「……この後用事があると言ってましたので、なるべく早く終わらせようと進めました」


あー確かに言ったけど……嘘なんだよね。なんも用事ない。


「ありがと」


若干、罪悪感はあるけど正直に話さず黙っとこう。


「では私も講義がありますのでこれで失礼しますね。明日は一人で学院に来るんですよ?」

「うん、努力するよ。またね」


僕にぺこりとお辞儀してからイリアは会議室を後にする。

さて、今日も頑張ったし、もう何もしたくないな。明日の為に部屋に帰って寝るとするかぁ。

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