第5話新入生
春、新入生がやってきた。
入学式の当日に新入生は学院の広間に召喚される。例えどこに居ても一定量の魔力があれば召喚されてしまうので入学を拒否することはできない。
在校生も召喚される新入生に興味津々で広間に集まっていることだろう。
僕は行くのが面倒なので個室でのんびり過ごしている。
確か召喚される順番は魔力の多い生徒からとなっていたはずだ。魔力が多い程、強い生徒の可能性が高い。だから最初の方が注目され、後ろの方になってくるほど興味も無くなってくる。
「あ、イリア」
イリアが僕の執務室に入ってきた。彼女も広間に行ってきていたようで様子を聞いてみる。
「概ね予想通りの順番でしたよ」
1人目と2人目は皇族の2人のジーク・ディランとシャルロッテ・ディラン。3人目は会議で話に出たリーア聖国の巫女シスナ・ティーム。
「平民はどれくらいに召喚されたの?」
「私が見たのは50人目までだったので、分からないです」
「そっか」
まぁ平民だし最後から数えたほうが早いくらいの順番で召喚されるだろう。
「イリア、お茶入れてもらっていいかな?」
「いいですけど、そろそろ入学式始まりますよ?在校生の挨拶、アルスさんがやるんじゃないんですか?」
「んーん。先輩に代わってもらったよ」
新入生300人全員召喚されると入学式が始まる。在校生代表の挨拶を僕がやらされそうになったが、特権を利用してシリウス先輩に代わってもらうことが出来た。挨拶なんかしたら顔を覚えられてしまって決闘の申し込みが増えてしまうからね。
「はぁ。またシリウス先輩にお願いしたんですか」
「ほんと助かるよ。先輩がいい人で」
入学式が終わったらこっちに来るように言っておいたので、おもてなしの用意はしておこう。
学院で僕がいつも居るのは僕専用の執務室だ。序列10位までは特権の一つとして学院内に個室が与えられている。序列1位にもなると学院の最上階は僕のモノになるらしい。まぁ、イリアやシリウス先輩、レーナとかは勝手に入って好きに使っている。ここにベッドを置き寝泊まりできれば移動時間とか短縮できるのだけど何故かイリアが許してくれない。
入学式が終わり、僕の代わりに挨拶を務めてきてくれた先輩が僕の部屋へやってきた。
「いやー助かったよ、先輩。はい、お礼のお菓子」
僕はポッケに入っていた飴玉をシリウス先輩に手渡す。
「っ!?アルスさん、流石に失礼すぎです。すみません、シリウス先輩」
イリアが僕と先輩にソファに座るように勧め、良さげな菓子とお茶をテーブルに用意する。
「気にしてないよ。それにしてもお礼が飴玉かぁ。はははっ、アルスは面白いなぁ」
すごいなこの先輩。正直怒るかなって思いながら差し出したんだけど、笑って許してくれたよ。懐が広い。見習いたいものだね
「あはは、飴玉はただの冗談だよ。本命のお礼の品はこれさ」
収納魔法の中から目当てのものを取り出す。取り出したのは剣だ。
「これは…」
「先輩、剣欲しがってたでしょ?ちょうどいいものが手に入ったから先輩にあげようと思ったんだ」
これは魔法剣で水を放出する。氷魔法が得意なシリウス先輩と相性いいと思って買ったのだ。
「こんな良い剣、貰えないよ。結構しただろ?」
億はいったね。結構な出費だったけど億面に出さない。
「多少高価だったけど、僕は使わないし貰ってよ。それに今後もいろいろ頼むだろうからさ、それ含めてのお礼品ということで」
「……そうか。そこまで言われたら貰わない訳にもいかないな。大切に使わせてもらうよ」
「うんうん。これからもよろしくね」
先輩が部屋から去り、僕とイリアだけになるとイリアがムスッとしながら言った。
「いいんですか?シリウス先輩に有用な武器を与えてしまって。それで苦労するのアルスさんですよ?」
一瞬なにを不満げにしているのかと思ったがすぐに思い当たった。あの剣で先輩に決闘を挑まれ敗れるかもしれないとイリアは懸念しているのだろう。
「問題ないよ」
余裕ありげに言ってみる。僕的には負けてもいいと思ってるし、全然問題はない。まぁ本当にあの剣を使ってもまだ先輩じゃあ僕には勝てないだろう。
「……流石ですね」
「うん。それはそうと、新入生の模擬戦始まってるよね?珍しい魔法とか使ってたら知りたいな」
この学院の新入生は入学式が終わってまずすることは新入生同士の模擬戦だ。
それで現状の序列が決まる。今回だけ特別に学院に施されている魔法で生徒の実力が計られ、序列11位から900位までに割り振られる。それからは決闘して序列の順位を上げていくのだ。
「そう言うだろうと思って、使いを出してます 」
「流石イリア」
僕は戦いには興味ないが、魔法には興味がある。
「いつも助かるよ」
魔法使いといえば、遠くから魔法を放ったり、使い魔を召喚したりという戦い方が主流だったのだが、ここ数年で変わってしまった。
強化魔法や防御魔法の発展により遠くからの魔法は有効打に成りづらくなってしまったのだ。
そのせいで最近の魔法使いの戦いは、強化魔法で近接戦ばかりのものになってしまっている。
殴る蹴る斬るといった代わり映えしない戦いに僕は辟易しているが、たまに珍しい魔法を使う人もいるので試合を観ないわけにはいかない。
僕が今一番興味があるのは巫女の使う魔法だ。どんな魔法を使うんだろうか?イリアはワクワクしている僕を見て呆れた表情をしている。
「なんとなく分かってましたが、新入生に脅威を感じてないのですね。羨ましいです」
「えっ!イリアは感じてるの?」
「当然です。今年も優秀な方が多そうですから」
入学して半年で序列5位になった強者であるイリアが危機感を持つなんて驚きだ。
「じゃあ久しぶりに特訓する?」
「!!い、いえそれは大丈夫です」
学院入学前、魔法を自由に使うことを許された頃、僕はイリアと共に特訓と称して1日中魔法の撃ち合いをしていた。
それが今の僕達の実力に繋がっていると思っているから、また特訓して実力を磨こうと思ったのだけど、遠慮されてしまった。
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