第3話ディラン魔法学院

ディラン魔法学院。大陸の覇者、ディラン帝国の首都にある学院だ。大陸中にいる一定の魔力量を持つ15歳から18歳までの人間は、在学することを強制されている。ここは頭がおかしい。


学院では社会階級による差別はなく、完全実力主義で強い奴が偉いといった野蛮な校風となっている。どれ程の強さがあるか分かるよう、学院で行われた決闘によって強さの序列を付けられてもいる。そして序列1位から10位までの生徒は、様々な特権を持ち、学院の運営を任されているのだった。


そんな学院に僕、アルス・リーダストは通っている。序列順位など気にせずに過ごしている生徒も無くはないが、多くは自分の序列を上げようと必死に鍛錬や策を練っていてとても危ない。

色々あって僕の順位は高く、学院を少し歩くだけで決闘を申し込まれてしまう。断るのも面倒なので、なるべく外に出ないようにしている。今日も一日部屋に引きこもろうと決めているのだ。

今日は休日でもなく授業もあるが、特権で授業の出席は免除されており特に問題はない。二度寝しようとベッドに入ったちょうどその時、ドアをノックする音と女性の声が聞こえてきた。


『アルスさん!起きてくださーい』


僕はジッと固まる。呼吸音、物音を立てずこの部屋には誰もいないと思わせるのだ。………頼む!そのまま帰ってくれ!!


『………いるのは分かってるんですからね!!開けますよー!』


僕の願いも虚しく、ドアを無理やりこじ開け部屋に入ってきた。僕は咄嗟に笑顔を作り、侵入者に挨拶をする。


「や、やぁ、イリア。おはよう」

「……もうお昼ですよ!早く準備してください 」


ジト目をしてこちらを見てくる彼女はイリア・アーリー。幼馴染で僕の世話係だ。


「今日は大事な用事があるんだから、ちゃんと学院に来てくださいって言いましたよね!?」

「あれ、そうだっけ?」

「もうっ!………はいっ!服脱いでっ!」


寝間着姿の僕を見た彼女は、制服に着替えるのを手伝ってくれるらしい。着替え終わり歯を磨いていると、イリアは櫛で僕の髪をとかしてくれる。


「わふいね。ふぉんなこふぉまえふぁへて」

「何言ってるのか分からないですよ」


身支度が終えて学院に向かう途中、僕はイリアに聞いた。


「それで今日は何があるの?」

「はぁ……。先日、決闘で序列9位が破れて入れ替わったので、新しい序列9位の者の挨拶があると言ったはずなんですけど?」

「あーはいはい。そういえばそうだったねー」


あまり興味がない。というのも序列7位から10位まではホイホイ入れ替わるものだから、わざわざ覚えても意味ないんだ。

新しく入れ替わる度に挨拶をしなくちゃいけないなんて面倒この上ない。行く必要ある?僕は学院と反対方向に転換し、イリアに言った。


「あー、悪いんだけど、今日急な用ができちゃったから行けそうにない」

「はぁ!?アルスさんには一言祝辞を述べてもらわないといけないんですよ!?どうするんですか!ちょっ、待て!」


逃げようとした僕の腕を掴む。


「えー、じゃあ代わりにシリウス先輩にやってもらって?あの人なら慣れてるだろうし、大丈夫でしょ」

「前回もそう言って逃げたでしょ!?今回こそはちゃんとアルスさんにやってもらうってロベルト先輩が言ってましたよ!」


あの顔が怖い先輩がかぁ。


「というかもう3ヶ月は円卓に出席してないんだから、今回は来てもらいます」


イリアは腕を放そうとせず、そのまま学院に向かおうとする。今回は逃げられそうにないな。仕方ない。パパッと終わらせよう。

会議が行われる部屋へ訪れると、もうみんな揃っているようだ。僕が来たことに

驚き、席を立ってこちらに向かってくる人がいる。


「やあ、アルス!今日は珍しく出席するんだな」


爽やかな笑顔で僕に挨拶をしてくれるのはシリウス・ミッシュナイト先輩だ。青髪に整った顔立ち、性格も良い。とても出来た人で僕が入学した頃からお世話になっている僕の大好きな先輩である。


「うん、偶には来ないとね」

「はははっ、アルスはマイペースだなぁ。そうだ!会議が終わったら一緒に食事でもしないかい?あ、イリアさんもどうかな?」

「アルスさん、どうします?」

「ごめん、用事があるんだ。また今度誘ってくれ」


良い人ではある。それは間違いないのだが、僕にとって困る気質があり、あまり一緒にいたいと思えない。


「まったく。我らは学院を運営する立場にあるのだ。出席すべき会議に3ヶ月振りに来たというのに謝罪もなしか?」


会話に割って入ってきたのはロベルト・クルード先輩。顔が怖い、以上。


「てめぇ、シリウスさんにばっか負担かけてんじゃねぇよ」


僕を睨んで文句を言うアルフレッド・ロゥ先輩。口調も格好も粗雑で僕はあんまり好きじゃない人だ。機会があったらぶっ殺そうと思ってる。


「ははっ、ごめんごめん。僕も忙しくてさ」


ドアの前で話し込んでいたのでさっさと席に着くとしよう。僕はドアから一番遠い席へと座る。

序列1位アルス・リーダスト。一応今この学院で僕は一番強いことになっている。


「それにこの学院では強い奴が偉いんでしょ?なら僕の好きにさせてよ」

「………….ちっ」

「アルスの言う通りだ。誰も彼を責められない」


僕の隣に座ったシリウス先輩がロベルトさんに言う。序列2位シリウス・ミッシュナイト。僕が入学するまで序列1位だった人でもある。僕は彼に勝って序列1位となってしまったのだ。


「今日欠席なのはレーナだけか」

「うん。彼女、君に会いたがってたけど今日は用事があるらしくて残念がってたよ」

「ふぅん」


一応、序列は以下の通りになっている。

序列1位アルス・リーダスト

序列2位シリウス・ミッシュナイト

序列3位レーナ・ティナベル

序列4位ロベルト・クルード

序列5位イリア・アーリー

序列6位アルフレッド・ロゥ

7位以下は名前知らない。

僕のお世話をしてくれるイリアも序列5位で結構強い。

さてと。


「はいじゃあ、時間も押してるしちゃっちゃと新しい9位の人を迎えようか」

「………お前が言うな」


ボソッと誰かが何か言ってるが無視し、僕達の新たな仲間を部屋に迎え入れた。



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