第5話 おじさんの辻除霊で学校がヤバい!
ミルクキャンディの優しい甘さが、口の中に広がる。
それとは裏腹に、わたしの心は敗北の苦さでいっぱいだった。
(くう〜〜っ……あのギャルめ。わたしを子ども扱いして……。飴玉一つで、あきらめるわたしではないぞ! ……おいしいのは、おいしいけど)
わたしは廊下の隅で膝を抱え、さっきの失敗を思い返していた。
敗因は分かっている。わたしの妖力が、あまりにも非力すぎることだ。
さくせん『いこうをみせつける』なんて、今のわたしには夢のまた夢だった。
これでは、どんなに完璧な作戦を立てたところで、机上の空論でしかない。
(まずは、さらなる情報収集と、こちらの無力を補う策が必要……かな)
わたしはゆっくりと立ち上がった。
あのロリコン地蔵は外の情報屋だ。校内の状況を正確に把握するには、内部に協力者を作るのが一番いい。
花子さんへのアプローチは、いったん保留。今は、もっと御しやすい小物から情報を引き出すべきだ。
わたしは霊的なエネルギーが溜まりやすい場所を目指して、校内を探索することにした。
カビくさい音楽室。ひんやりとした図書室の片隅。
そして夕暮れの光が差し込む、旧校舎の渡り廊下――。
夕陽に目を細めながら歩いていると、開かずの物置になっている美術準備室のドアの隙間から、二つの囁き声が聞こえてきた。
一つは、カタカタと乾いた音を立てる甲高い声。
もう一つは、古めかしい武士のような、低い声。
わたしは息を殺し、そっとドアに耳を寄せた。
「……カタカタ……聞いたか、武士殿。昨夜、理科室のビーカーの霊が……」
「うむ……あの教師に辻斬りならぬ"辻洗浄"をされたと聞いたでござる……跡形もなくな……」
「カタカタカタ! 我らもいつ"辻分解"されるか分からんぞ……!」
「落ち着けい! かの男、耳がよい。音を聞かれるでござる」
「だが、このままでは我らは……」
「むっ……またれよ。誰ぞの気配がするでござる……!」
その言葉を最後に、物音一つ聞こえなくなった。わたしがドアノブに手をかけても、びくともしない。鍵がかけられているようだ。
わたしは一人、真っ赤に染まった廊下に立ち尽くす。
("辻洗浄"に"辻分解"……あとかたもなく……間違いない、叔父さんのしわざだ。出会い頭にパァンされたんだ)
さっきの会話が、頭の中で何度も反響する。
この学校にいる怪異たちは、みんな叔父さんの存在に怯え、いつ消されるか分からない恐怖の中で、息を潜めて生きている。
どうやら、もうわたしだけの問題ではなくなっているみたいだ。
叔父さんは最終的に、この学校に住む怪異すべてを根絶やしにするつもりだ。
わたしが仲間を増やそうだなんて考えているうちに、その仲間候補たちが、どんどん"パァン"されている。
ごくり、と喉が鳴った。
事の重大さを、わたしは今、本当の意味で理解した。
(花子さん……一刻も早く、あのギャルを仲間に引き入れないと!)
手駒とか、どっちが上とか、そういうのじゃぜんぜんダメだ。力を合わせないと、あの規格外には絶対に勝てない。
この絶望的な状況を一緒に生き抜いて、ヤバすぎる叔父さんに立ち向かうための……最初の『友達』になってもらおう!
わたしは口の中に残っていた飴を、ゴリッと噛み砕いた。
甘いミルクの味にとろけそうになるのを、ぎゅっと口を結んで気合いを入れた。
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