第12話:残り15人

 参加者は残り16人となり、バトルロイヤル開始からもうすぐ2時間が経過しようとしていた。


 フィールド南東では長剣を持った1人の男が高い木の上から他の参加者を探していた。事前予想1位の雷使い、大橋 雷斗である。


「この位置だと他の参加者を見つけるのも限界があるな。さっきは奇跡的に浮綿が飛んでたから狙えたが」


 大橋はバトルロイヤル開始地点だった無人島の南東で高い木を探し、木の上から他の参加者を狙う作戦を取っていた。しかし、闇沢たちの作戦によって他の参加者たちが視界に入らないように誘導されており、発見すらほとんど出来ずにいた。


「てかもっと狙われると思ってたんだが誰も来ないな。好都合だがちょっと寂しいな」


『ドンッ』


「っ!」


 突然の衝撃と共に木が倒れ、大橋は驚きつつも無傷で着地する。


「お前は……」


 大橋の前に現れたのは事前予想3位の重力使い、重影 翔だった。手にはナイフを持ち、今にも泣きそうな表情をしている。


「俺、この1時間半誰とも会えなくてさ、もしかしてこのまま終わっちまうんじゃないかって……うっ」

「おい泣くんじゃねぇよ。俺まで……ぐすっ」




 3分後。




「よし、殺ろ殺ろ」

「部活の先輩たちが見に来てるの忘れてたわ。茶番はここまでだ」


 気を取り直し、重影と大橋は臨戦態勢に入る。


「俺は雷使いと何回か戦ったことがあるから知ってるぞ。お前、接近戦苦手だろ」


 重影に言われた大橋は焦る風でもなく、異能力を発動しつつ答える。


「そうなんだよ。接近戦ほんとに苦手でさぁ。克服しないとと思ってるんだよ」


 大橋の周囲に小さな雷雲が幾つか出現し、バチバチと音を立て始めた。


(え、なんか想像してたのと違うんだけど)


「それじゃあやろうか、接近戦」


 こうして、大橋 雷斗と重影 翔による優勝候補同士の対決が始まった。








 その頃、フィールドの北側では千里眼で他の参加者たちを監視していた闇沢が重影たちの戦闘に気付いていた。


「大橋さんと重影さんが戦い始めましたね」

「まじか。近くか?」


 他の優勝候補同士の対決が始まったことを知り、冬海は闇沢に尋ねる。


「いや、フィールドの南東なので今から行くのは厳しいですね」

「そうか」


 参戦できないことに冬海は少し残念そうにする。


「ここで大橋が脱落してくれればだいぶ動きやすくなるんだけどな」

「そうですね。あと他には……今私たちの近くに他の参加者はいないですね。一旦南下しましょうか」

 「そうだな」








(くそっ、あいつ全く隙が無いな)


 大橋との戦闘開始から数分後、重影は障害物の多い森の中に逃げ込んでいた。大橋は重影を追うように森の中を歩いて進む。


「おい逃げんなよ重影〜」

「あの野郎守り固めやがって」


 大橋の周囲には4〜5つほどの小さな雷雲が漂い、近付く者をいつでも狙い撃ちできるようになっている。


『ドーーン』


『ドーーン』


 小さな雷雲から雷が放たれ、重影はその度に飛び退いて回避し、障害物を縫って後退する。


(てか後ろから誰か来てるじゃねぇか)


 重影の後方にはマシンガンを持った女、取野 恵美が歩いて来ていた。それを見た重影はあえて取野の方に突撃する。重影の接近に気付いた取野はマシンガンを構えて引き金を引く。


『ダダダダダダダダッ』


(森の中は障害物が多くて良いな。避け易さが違う)


 重影は木から木へと飛び移って銃弾を躱しつつ取野の頭上を越え、さらに進んで距離を取った。


「……?」


 重影の動きに困惑した取野だったが、大橋の接近に気付くと迎撃態勢に入る。


『ドーーン』


 大橋に銃を向けた瞬間に雷の直撃を受け、取野は一瞬で黒焦げになった。


「取野 恵美、脱落。残り15名」


 取野の脱落によって残りの参加者は15人になり、開始時点の半分となった。

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