第5話:海元高校ビーチバレー部

 南大陸四強クランの1つとして有名な海元かいげん高校。

 実際にはそのような名前のクランは存在しないが、海元高校の生徒たちが部活動単位で結成しているクランをまとめた総称として知られている。




 その海元高校のすぐ近く、南大陸西側の海岸で、4人の女子高生たちがビーチバレーをしていた。

 一方のチームは1級異能力者で青髪の水鳥みずとり しずく、3級でピンク髪の江上えがみ 奈瑠なる。2人とも海元高校ビーチバレー部の部員である。


 もう一方のチームは笛野ふえの 向葵ひまり笛野ふえの 結月ゆづき。こちらは中央大陸の高校に通っている双子の姉妹であり、2人とも1級異能力者である。



「あれ、水鳥先輩たちと試合してるの他校の生徒っすか?」


 試合を眺めていた部長の男子生徒のところに、1年生の大橋おおはし 雷斗らいとが歩いてきた。


「ああ。水鳥の昔の同級生なんだってさ」

「へえ〜、13-12。良い勝負ですね。何セット目ですか?」

「3セット目」

「すげぇ良い勝負ですね! もしかして強豪校の方たちですか?」

「いや、バレーボールは体育の授業でしか触ったこと無いって言ってた」

「そんなことあります?」


 ここで、水鳥がサーブを打つ。ボールに手が触れる前に異能力「水使い」を発動して手に水を纏わせ、水圧で威力を上げ高速でボールを放った。


「いや水鳥先輩めっちゃ本気じゃないですか」

「向葵!」

「はいっ」


 銃弾のような速度で飛んできたボールを笛野 向葵がレシーブし、結月がトスを上げる。


(え? 今のレシーブ……)


「それっ。あ、ごめん。ネット近い」


 向葵は異能力で脚力を高めて大ジャンプすると、3枚ブロックの上からスパイクを叩き込んだ。


「これで13-13っと」

「スパイク打った方の子、異能力使わずにレシーブしませんでした?」

「気付いたか」

「何者なんですか?」

「言っただろ? 水鳥の昔の同級生だって」

「ああ、」


 大橋は水鳥の出身校を思い出した。


藤見ふじみ中学デスゲーム部ですか」

「そう、1級異能力者の笛野姉妹」

「伝説ですよね。そんな凄い人たちがなんでこんな僻地に」

「僻地て」


 部長は笑うと答える。


「第五大陸建造プロジェクトに助っ人で呼ばれて近くに来てたから遊びに来たって感じらしい」

「ああ〜なるほど」


 第五大陸建造プロジェクトとはその名の通り新しい大陸を人力で建造するプロジェクトである。一部の1級異能力者たちが主導し、南大陸西の沖合で進められている。




 試合は続いて笛野 向葵のサーブ。サーブが打たれた次の瞬間、江上が異能力「分身」を発動させ、5人の分身がコート上に現れた。


「江上1人いればコート全体守れるの便利ですよね」

「ああ。ビーチバレーなのにブロック3枚以上つけられるしな」


 出現した分身の1人がレシーブし、残りの分身たちが一斉に助走に入る。


((シンクロ攻撃!))


「結月ブロック任せた」

「マジできもいんだけど!」


 レフト側に走った分身にトスが上がり、スパイクを打つ。

 しかし、笛野 結月がスパイクの軌道上に突然現れ、ブロックが成功した。


「今のって瞬間移動かな」

「いえ、とんでもなく速かったですがちゃんとレフト側まで走って跳んでましたね」

「よく見えたな」


 これによってスコアは13-14になり、笛野姉妹チームのマッチポイントになった。


「というか江上、1級異能力者たちの対決に放り込まれてるの地味に可哀想ですね」

「それは俺も思った」


 再び笛野 向葵のサーブ。今度は水鳥がレシーブし、江上がトスを上げる。


「水鳥なら決めるっしょ」


 結月がブロックにつくが、水鳥が異能力を発動させてスパイクの威力を上げる。


「痛った」


 結月の手に当たったボールはコート外に弾き飛ばされた。


「おらっ」

「ナイス!」


 しかし、向葵が追い付き際どくレシーブする。


(なんでコート外に飛んでったのに拾えてんだよ)


「はいっ」


 結月がアンダーで返球。それを江上がレシーブし、水鳥がトスを上げるためボール下に入る。今度は江上の分身が10人現れ、一斉に助走を開始。


「「あっ」」


 しかし、早いタイミングの攻撃で連携が合わず、ボールは地面に落下。


「「やったぁー!」」

「すいません!」

「いや、今のは私も良くなかった」


 こうして、スコア13-15で笛野姉妹チームが勝利した。






 その後、他の部員たちも続々と集まってきた。練習風景を眺めながら、元藤見中学のメンバーである水鳥と笛野姉妹が雑談していた。


「海元高校、デスゲームの名門校って聞いてたから毎日バトってるのかと思ってたけど、普通に部活してるんだね」

「私も入学したときは意外だったけどね。実はそんなにデスゲーム出てない」

「1級が2人もいるのに勿体ないなぁ」

「でも去年、5vs5の大会出たって聞いたよ」

「えーっと、雫たちのチームは……これかな。海元高校ビーチバレー部、グランドファイナルでベスト8だね」


 向葵がスマホで去年開催された大会の結果を発見した。


「あー、優勝したら言おうと思ってたのに。準々決勝でUNDEAD CHAMPSに負けたよ」

「やっぱ強いか〜、藤見中学のときの私たちが勝てなかった唯一のクランだもんね」

「そういえば藻部山は? 水鳥と一緒の学校に入ったって聞いたけど」

「うちの部には入ってないけど、一応呼んではおいたよ」

「わっ」

「「うわっ!」」


 いつの間に背後に回ったのか、長い黒髪の少女が笛野姉妹の肩に手を置く。


「あ、藻部山さんやっと来た」

「……藻部山ちゃん久しぶり」

「……びっくりしたよ。中学んときより更に存在感無くなってない?」


 1級異能力者、藻部山もぶやま 日和ひより。水鳥や笛野姉妹と同じく藤見中学デスゲーム部のメンバーだった。


「2人とも、あの頃よりずっと強くなってるね」

「おう、気付いたか」

「今私たちで戦ったら誰が1番強いんだろうね」

「分かんない。でも……」


 藻部山は続ける。


「戦ってみたい」

「いいね」

「久しぶりに戦ってみる?」

「戦うなら大会で戦いたい」

「おい」


 藻部山は水鳥の方を見る。


「雫ちゃん、今年もビーチバレー部で5vs5出るよね。私も出たい」

「入部するなら良いよ」

「する」

「よし、決まりだね」

「5vs5かい。てかそれ私たちも出ろってこと?」

「折角だし出ようよ向葵、メンバー集めてさ」

「まあ、いいけど」

「よし、そうと決まれば」


 笛野姉妹は立ち上がった。


「ありがとう雫、今日は楽しかったよ」

「うん、私も楽しかった。後輩にとっても良い刺激になったと思うし」

「じゃあ、また近くに来ることあったら遊びに来るよ」

「ばいばい、雫ちゃん、藻部山ちゃん」


 海元高校を後にし、笛野姉妹は中央大陸に帰って行った。







「雫ちゃん……あの子何者?」


 藻部山が試合中の男子生徒の1人を指して水鳥に尋ねる。


「あの部長とペア組んでる子? 1年生の大橋 雷斗くんだよ」

「デスゲーム出てる?」

「初心者らしいけど出てるよ。来週末も大会出るって言ってた。……あ、今4級ね」

「4級?」


 藻部山は少し困惑する。


「とてもそうは見えないけど。さっきからたまに目が合うし」

「え?」


 水鳥は驚いた。藻部山の存在感の薄さを知っているからだ。


「この距離で藻部山さんに気付くのは確かに凄いね。ちょっと目が良いなくらいの印象だったけど」

「異能力は?」

「雷使い」

「戦ってるところは見たことある?」

「無いかも」


 水鳥は少し考えた後に藻部山に尋ねる。


「見に行ってみる? 来週末の大会」

「行く」







「どうした雷斗。さっきからやたらと水鳥のこと見つめて。もしかして惚れたのか?」

「……クソ不気味だな」

「どういうこと!?」

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