第2話:複合異能力

複合異能力とは、2人の異能力者が触れ合うことで発動できる特殊な異能力である。

(例:閃田 + 梨木 → 分身能力)


――――――――――――――――――――


「重影 翔、脱落。残り2名」


 重影の死亡を知らせるアナウンスが無人島に響き渡る。


「上手くいったみたいだね。ありがとう、もういいよ」


 そう言われた梨木は、閃田の背中に触れていた手を離す。


「驚きました」

「複合異能力がこんなに弱いとは思わなかった?」

「はい。3級同士の複合異能力で1級を倒した話とかたまに聞くので」

「僕もまさか1人ずつしか出せないとは思わなかったよ。まあ、複合異能力の強さって使う人たちの相性とか実力も関係あるらしいからね。お互いまだまだってことかな」


 バトルロイヤル中盤から共闘していた閃田と梨木だったが、2人で発動できる複合異能力「分身」が思いのほか弱かった。どんなに頑張っても分身を1人ずつしか出せなかったため、他の参加者を狙撃できるポイントに誘い出すための囮として使っていたのだ。


「どうする? あと残ってるのは僕たちだけみたいだけど、戦って優勝者を決めるかい?」

「いえ、私なんかがここまで生き残れると思ってませんでたし。少し離れるので一撃で楽にしてください」

「分かったよ」


 梨木の異能力「食材生成」は、新鮮な状態の食べ物を生成し、手から出現させる能力である。便利な異能力ではあるが戦闘では役に立たないため、バトルロイヤルの事前予想でも最下位を付けられていた。


 射やすい距離に立った梨木に向かって、閃田は弓を構える。


「っ! 何だ……これ」


 突如、彼の首に痛みが走る。


「私の異能力って、日常的に食べてた人たちがいれば食材だと認識してくれるみたいなんですよね」


 あまりの痛みに弓を落とし、閃田はその場に座り込んだ。首を押さえた手に違和感を感じたので確認すると、小さな生き物が付いていた。


(これは……サソリ!?)


「そのサソリ、複合異能力を解いたときに何匹か出現させて、閃田さんの背中に付けておいたんです。弓を構えたときに驚いて刺しちゃったみたいですね」


(そんな……)


「ああ、そうですよね。苦しいですよね。今楽にしてあげます」


 そう言いながら梨木は歩み寄り、腰に装備していたナイフで閃田の首を切り裂いた。


「閃田 祐一、脱落。残り1名」

「優勝者、梨木 穂乃果」












「……一体何が起きたんだよ」


 運営の異能力者によって蘇生され、選手控え室に転送された重影は周囲を見回す。


「うわー!」

「まじかよ」

「梨木ちゃーん!」


 控え室の壁に取り付けられた大きなモニターの前で、5〜6人の参加者たちが集まって騒いでいる。


「重影お疲れ様。惜しかったな」


 近くにいた男が重影に声を掛けてきた。


「ああ。お前は全然惜しく無かったけどな」

「おい」


安楽岡やすらおか たかし。異能力「無効化」と異常に高い身体能力の相性が抜群。事前予想では1位だったが、序盤で脱落してしまった)


「事前予想1位ってきついな。滅茶苦茶狙われる」

「だろうな。ていうか、俺なんで死んだのか分かってないんだけど」

「お前が倒したのは閃田と梨木の複合異能力で生み出された分身、つまり囮だった。そこを本物の閃田が弓でこう、グサッと」


(げっ、複合異能力かよ。攻めたことしてきやがって)


「そういうことか。なら優勝は閃田で確定だな」

「いいや、」


 安楽岡はモニターの方を見る。


「近年稀に見る大番狂わせだよ」


 次の瞬間、控え室に閃田が転送されてきた。


「ってことは……梨木が優勝!?」

「まさかこのメンバーで手から食材出す能力のやつに負けるとはな。さてと、そろそろ行くか」

「俺も行く。会場はさぞかし大盛り上がりだろうな」

「あはは、事前予想最下位が暴れる回って盛り上がるイメージあるよな」


 そんなことを話しながら、重影と安楽岡は控え室の出口に向かって歩き出した。他の参加者たちも続々と歩き出し、観客たちがいる会場に向かった。




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