EP012:緊急!輸送ルートを塞ぐ帝国軍を撃破せよ!

 高山で、黒い岩と白い雪ばかりの広野。


 イリア山脈でも森林限界線──気温が下がる高山では一定より高い場所だと木が育たないんだ──より遥か上は、通常フルメタルビーストが活動できる環境ではない。


 しかし反乱軍は、この不可能を可能にして、補給物資を運んでいる。


 グランジラフが虫食いする森では途切れがちなルートも、イリア山脈越えでは帝国軍の妨害がない。


 今までは……。


 イリア山脈は東西を分ける大山脈。


 天然の要害であり、反乱軍の生命線が何本も通っている。反乱軍が戦うための物資の多くがイリア山脈を越えなければ運べない。


 輸送ルートは生命線だ。


 しかし帝国軍に脅かされている。


 輸送部隊が襲撃されているのだ。


 帝国軍の実験的装備で改造された寒冷地仕様のグランジラフが、イリア山脈で反乱軍と交戦している。


 ただ、下界ほど脅威というほどではない。


「諸君。ガンダラクシャの食事が一日一食になっている。許しがたい。行くぞ!」


 雪の積もる山から反乱軍FBが飛びだす!


 氷のうえをおっかなびっくりにスパイクを打ちながらでしか歩けないグランジラフをあざらうように、反乱軍FB部隊は氷の上を滑るのだ!


 謎の鋭いバイトファングが、グランジラフの足に噛みつくと〝それ〟は姿をあらわした。


 イタチ型ガーミンだ。


 純白で細身の猛獣は、雪のなかを自在に泳いで〝新参者〟を引き裂いていく。


 グランジラフは改造されてようやっと、イリア山脈の雪に適応しているにすぎない。


 ガーミンは何億年と試行錯誤し、高山の寒さを生き残った『形』を産まれながらにもっているのだ。


 ガーミンに比べれば、グランジラフ…………帝国軍のたかだか数世紀の進化など、背伸びする獲物でしかない。


 グランジラフは強力なFBだが、極寒の高山地帯では戦力も激減していた。


 高山に住むFBを活用する反乱軍にとって、グランジラフを追い払うことは不可能ではない。


 しかし、であるからこそ。


 白い雪上迷彩をした反乱軍兵士は疑問に思う。


「なぜ帝国軍はグランジラフをわざわざ不利な高山に投入する?氷の上も満足に滑れないのに」


 反乱軍も、相対的には戦力差が縮まり、弱体化したとはいえ脅威であるグランジラフに被害を出しつつも前進する。


 宇宙にいる監視FBブルーボルトからの情報で、帝国軍が秘密基地を作っているらしいからだ。


 秘密兵器があるかもしれない。


 技術で劣る反乱軍には魅力的な宝箱だ。


 ブリザードさえも慣れている反乱軍FB部隊は、視界ゼロのなかでも帝国軍秘密基地を目指す。


 その時、激しいブリザードのなか襲われる!


 銀色のメカだ!


 それは帝国軍が寒冷地に対応させた新型コマンドビーストだ。驚くべきことに高山に存在しないカニ型FBが高山に適応するため過剰に改造されているではないか!


「無茶をする!」


 帝国軍超小型FB。


 コマンドビーストであるカニ型イエティピンチ!


 イエティピンチは寒さ対策に金属製の毛皮らしきものを着込んでいる。内側は雪を溶かすほど熱を溜めているが、ほとんど外には漏れていない。


 足はより短く頑丈になり山肌をかけあがりやすくなった。これによりイエティピンチは他のフルメタルビーストが凍りついてしまい動けない険しい環境でも素早く動けるのだ。


 どんな大型メカも、足場が悪く、寒さのせいで性能を半分もだせず、過剰な大砲を使えば雪崩に沈む。そんな最中で、罠に落ちて集中砲火をあびてしまえば……。


 イエティピンチはイリア山脈の雪山に適応していたのである。


 反乱軍のガーミン部隊は突然の襲撃に驚く暇もなく、冷凍ガスを浴びせられあっという間に凍りついてしまった。


 フルメタルビーストがいかに、戦闘用に改造されているとはいえ生物であり、超低温環境では機能が止まってしまう!


 ガーミン部隊が敵を見る。


 ガーミンが降り積もる雪を、サンダーネイルで引っ掻いた。たちまち白い煙が戦場をおおいつくす。


 イエティピンチの猛攻撃が止まる。


 視界ゼロ──ホワイトアウトだ。


 イエティピンチが二本の独立センサである目を動かして反乱軍を探す。だが真っ白な壁が広がるばかりだ。


 だがガーミン部隊は〝見て〟いる。


 闘争本能が熱をおびる!!


 強いだけでは勝てないぞ。


 環境と技が勝敗を決める。


 ならば…………野生こそが最強だろう。


 突如イエティピンチが呑みこまれる。


 雪の下に、何かが、潜んでいるのだ。


 イエティピンチはすぐさま雪上を滑るように走り、捕まらないようにする。


 視界ゼロのなかで帝国軍は仲間たちと激突してしまう。


 そに音が、積もる雪、凍った氷を震ふるわせる。


 氷を砕き、地下から浮上したガーミンがイエティピンチを次々と撃破する。


 ガーミン部隊のパイロットは、ガーミンが感じている機微を読んで、帝国軍の音を聞いていた。


 氷が割れる音、雪を踏む音、冷凍ガスの悲鳴のような発射音……それらを聞きながら、雪のなかを泳ぐ。


 そして氷を打ち割り襲いかかるのだ!


 勝負を仕掛けたイエティピンチは、熟練のガーミン部隊との戦いで壊滅した。


 ガーミンのパイロットたちは、グランジラフやイエティピンチとの戦いで違和感を抱いていた。


 帝国軍が迷いこんだにしては大戦力すぎる。


 どこかに拠点があるのかもしれない………。


 ガーミン部隊は、イエティピンチの進路を逆算して、地形を辿っていく。


 そしてついに帝国軍秘密基地を発見した。


 反乱軍の輸送ルートの安全確保のためにも、絶対に秘密基地はおとさなければならない。


 イリア山脈の覇者を決める戦いが始まろうとしていた。

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