EP007:決死!グランジラフ破壊作戦! 2/2

「むッ。砲声だ」


 一機のグランジラフを中心にした陸上艦隊的な部隊であるグランジラフ特務部隊のFBが反応する。


 ガンフィッシュのサイドソナー群が、空気のふるえをキャッチした。元は視界の悪い川のなかでも正確に測る、音を見る耳だ。


 ガンフィッシュとはサカナ型FBで、反乱軍が川に潜伏させているFBを駆逐するために投入したものだ。主砲は脱空弾頭と装甲貫通弾頭の二種類を同時に放ち、空気を真空化することで抵抗ゼロにして、超高速砲弾をぶつける!


 画期的な新兵器だが水中では極端に制限されることが判明していた。


 そしてガンフィッシュはスネークイータとペアを組み、空輸されたあと空中投下で素早く川に展開する戦術で反乱軍を迎えうつのだ。


……もっとも今は都合の良い空中聴音機だが……。


 音の正体はすぐさまコンピュータで分析され、ガリオニクスの装備するキャノンであると計算された。


 グランジラフ特務部隊にガリオニクスは配備されていない。正確には、配備されていたが川での戦いで損失した。


 警備についているダークウルフに通信がまわる。


 一部隊、応答がない。


「敵かな?」


 ガンフィッシュを掴んでいるスネークイータが目星をつける。


 スネークイータ乗り、喧嘩屋クレア。


 ガンフィッシュ乗り、必中クラリス。


 帝国軍のエースの二人だ。


 部隊の中心であるグランジラフが頭をあげる。


 指揮所でもあるグランジラフには、大部隊を指揮・運営する能力がある。空、陸、川とまったく違う場所で活動する色々なFBを同時に管制できる十分なスペースがある。


 巨大な移動基地とも言えるだろう。


 スネークイータは旋回しながら、野戦陣地を作りおえたグランジラフの頭上を旋回する──非アクティブの電磁鉤爪にガンフィッシュを掴んで。


「…………襲撃だ!」


 クレアのスネークイータが急旋回。


 電磁鉤爪にいるガンフィッシュが揺れる。


 反乱軍の偽装部隊が、察知された瞬間だ。


 帝国軍のグランジラフ特務部隊は、反乱軍のグランジラフ爆破の工作に素早く対応していた。


 反乱軍に鹵獲されたガリオニクスが森を走る。


 帝国軍にいたころとは明らかに動きが違う──何よりも違うのは、キラーバイトファングの揃う顎門がまったくロックされていない。


 どころか、この反乱軍鹵獲ガリオニクスの口には爆発ボルトが無数に並んでいる強化型キラーバイトだ。


 反乱軍が手懐けたFBが、もっとも一般的にもっている噛みつき攻撃の威力を高めるための追加パーツだ。


 噛みついたあとに爆発ボルトを同時に点火することで〝二度噛み〟することで分厚い装甲を砕くのだ!


 対グランジラフの為さらなる強化だ。


 帝国軍は反乱軍強化FBに苦戦した。


 グランジラフがしびれをきらし動く。


 修理を切り上げて、出撃した。


 まだ首の回転鋸の交換は終わっていない。


 大型FBであるグランジラフが、ウルニアの森を強引に走り抜けることは不可能!


 それでもグランジラフは立ち上がる。


 苦戦する帝国軍の味方を見捨てられない。


 グランジラフの巨砲が絶叫をあげていた。


 放たれた砲弾が森の天蓋を突き破り、爆発の炎があがり、すぐに黒い煙となった。


 グランジラフが首を伸ばしても、森のなかまでは見えない。


 無線が途絶えがちで、正確な砲撃のための通信はほとんどつながらない。


 グランジラフは走る。


 より近づいて目視で直接、撃つ!


「焦りすぎだ。だから、罠に落ちる」


 グランジラフは自分で作った道を駆け……罠に落ちた。少しでも早く仲間を助けようと走った足が沈む。


 落とし穴だ。


 全力疾走する細く長い足が、深い落とし穴に落ちたのだ。足が酷く損傷してしまい動けない!


 ジタバタと暴れるグランジラフ。


「まずい!」


 それを上空で見ていたスネークイータ……喧嘩屋クラリスが目撃していた。


 スネークイータの電磁鉤爪にいるガンフィッシュが口からフォノンビームをはなって地上戦を援護する。だがカノンリウム部隊による対空砲火にさらされては、満足な支援などできない。


 森の切れ目にいた反乱軍がひいていく。


「…………なんだ?」


 グランジラフは今、身動きがとれない。


 今こそ一斉攻撃のチャンスだというに!


 帝国軍の誰もが、反乱軍の奇妙な動きに疑問をもち……足元を揺るがす振動で、反乱軍の攻撃に気がついた。


「川を氾濫させたのか!」


 堰き止められていた川の水が、あらゆるものを押し流しながらせまる。濁流とかした川は、木、岩、そしてFBさえも呑みこみながらグランジラフへ襲いかかった。


 グランジラフがにらむ。


 装甲シャッタがおりる。


 森そのものを洗い流した濁流のあとには、土に沈んだ光景が広がるばかりだ。


 グランジラフは倒されたのか?


 泥のなかからグランジラフが這いでる。


 すっかり体を泥で汚してしまっているが、自力で脱出することに成功したのだ。


 その足は落とし穴で、壊れているが歩くことには問題がない。やや足を引きずりながらも泥をかきわけて進む。


 長い首を泥へ突っこみしばらく──生き埋めになっている帝国軍FBをくわえて抜きだす。


 反乱軍のグランジラフ破壊作戦は失敗した。


「こりゃあもう無理だな」


 すっかり泥だらけになっている反乱軍FBたちは、壊滅しながらも立て直そうとしている帝国軍部隊を諦めていた。


 グランジラフには勝てない。


 少なくとも、今の戦力では。


 絶望的であるというのに、反乱軍のFB乗りの顔色は特に悲壮感はない。「そういうこともある」とばかりに撤退のために部隊をまとめる。


 反乱軍のナイトジャガーもまた顛末を記録して、グランジラフ特務部隊を調べるポジションから引きあげるのであった。

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