EP008:積荷を守れ!グリーンデルタの怪魚!

 新型として投入されたグランジラフが森に道を作り、単純な機械力で勝る帝国軍はじわじわと前進を続けている。


 だが帝国軍の進撃はほぼ止まった。


 無限に広がっているかとさっかくしてしまうウルニアの森の深さは、帝国軍の侵攻部隊全てが呑みこまれても、まだ足りないほど広大だった。


 グランジラフが投入されていても大自然はもっとずっと大きいのだ。


 戦いとなればグランジラフは反乱軍のどんなFBも圧倒している。だが、大自然・ウルニアの森を攻略するには力不足だ。


 戦線というものは消えて、敵味方が入り乱れるような機動戦へと移行している。


 反乱軍は長年築いたトンネル、FBが即席で作るトンネル、網の目のような川や湿地帯を全て活用して、帝国軍を細切れにしながら森で戦う。


 戦闘で重視されていたのは川だった。


 川で足止めができるし、渡ろうとすれば大きな隙を見せる。


 水流に乗れば大量の荷物も運べる。


 戦況は、川の両岸あるいは川そのものをめぐって、反乱軍と帝国軍の消耗戦にうつっていた。


 陸のなかで海戦が繰り広げられている。


 グリーンデルタ。


 緑の三角地帯では幾つもの大きな川が絡みあい、古くから複雑な水路が整備されてきた。


 反乱軍艦隊、ブラウンウォーターフリートにとっては安全に物資を移動させる貴重なルートだったのだが…………帝国軍も絶えず奪取の機会を狙っている。


 ここでは大洋の海軍と違い、陸戦用FBとの深い連携が勝敗を決める。


 広い川だが、両岸には反乱軍の地上部隊が哨戒していて、いざという時には駆けつけてくれる。


 だが、艦隊は不安を隠せない。


 帝国軍はガンフィッシュを投入している。


 それに…………。


 いつも両岸にいる友軍が今日はいない。


 艦隊は『秘密の荷物』を載せて、警戒しながらガンダラクシャ要塞へ進んでいた。


 反乱軍艦隊の一隻が盛大に水柱をあげる。


 グリーンデルタの赤い川に……何かいる。


 魚?


 帝国軍最新メカ・サカナ型ガンフィッシュ!


「疫病神の鳥野郎に見られていたか……応戦だ!」


 ガンフィッシュを操縦するのは「必中屋」クラリスと恐れられるクラリス大尉に率いられたガンフィッシュ部隊の前には、反乱軍は護衛ともども押されている。


「負けるな、押し返せ!」


 苦戦をしいられる艦隊司令官は、旗艦であるカバ型ヒボバンダスのブリッジからズタズタにされた陣形を見る。


 護衛であるナマズ型ウィップベアード部隊が、ヒゲであるサーマルロッドを振り回す。水面を引っ掻いた瞬間、魚雷の群れが同時に爆発した。


 次々と水柱があがり衝撃で左右に揺れる。


 だが防御に成功したウィップベアードを、必中屋クラリスのガンフィッシュが狙う!


 水面に顔を出した瞬間、ガンフィッシュはキャノンを二回撃つ。


 脱空弾頭が先行して真空のトンネルを作り、本命 の装甲貫通弾がウィップベアードを完全に貫いた。


 ウィップベアードは大爆発を起こして沈む。


「なんとしてでも突破しなければならないんだ!怯むな、ガンダラクシャに帰るんだ!」


 対水中戦のかなめであったウィップベアード部隊が最初の魚雷攻撃で壊滅した。


 水上を走るヒボバンダスへ攻撃が集中する!


 ヒボバンダスは真空トンネルを抜けてくる高速弾を最初は回避することができても、さすがにガンフィッシュ部隊の一斉攻撃までは無理だ。


 装甲を抜くにぶい音……一瞬で蜂の巣だ。


 必中クラリスのガンフィッシュ部隊を突破しようと反乱軍艦隊は抵抗するが、艦隊が追うほどガンフィッシュ部隊は下がり、一定の距離を保つ。


 そうして一方的に砲撃を受ける繰り返し。


 このままでは──全滅する!


「最後の手段だ……奴を、積荷を解放しろ!」


 艦隊司令官は決断する。


 ガンダラクシャへと輸送する最中だった新型──ピラニア型スラッシャーピラノが投入される。


 どこにでもいる野生種のピラノだ。


 しかし、その目があやしく光った。


 ガンフィッシュの半分ほどの大きさしかないスラッシャーピラノたちはコンテナから直接、水中に解き放たれた。


 水面より上での戦いで濁った川がさらに川底を巻き上げているなかを、ガンフィッシュ部隊に気づかれることなくスラッシャーピラノが近づき、ガンフィッシュの背中から襲いかかった。


「なんだ!?」


 クラリスの乗るガンフィッシュは、突如、後ろから狙ってきた敵に気がつく。


 ガンフィッシュの真空砲は、空気にトンネルを作ることはできても水中では不可能だ。そして魚雷は反乱軍艦隊への攻撃で使い果たしている。


 スラッシャーピラノのバイトファングが、ガンフィッシュのヒレを噛みちぎる。


 エースであるクラリスはそれでも素早く反応した。


 ヒレを失いはしたが、反撃に短距離フォノンビーム……音の衝撃波を浴びせてやろうと撃つが、衝撃波がスラッシャーピラノを砕く前に水泡だけを残して消える。


 信じられないほどの高速で、浅く、視界ゼロの川を泳いでいる!


 有人の動きではない。


「まさか無人機なのか!?」


 帝国軍でもアイデア留まりだ。


 それを反乱軍が投入していた。


 クラリスは冷静に考え決断する。


「……打撃は十分与えた。消耗戦に付き合う必要はないね」


 クラリス大尉のガンフィッシュ部隊は、獲物を求めすぎずに一目散に撤退する。しっかりと川底を叩いて目眩しをしたうえで。


 ガンフィッシュ部隊をしりぞけた反乱軍艦隊は、半壊しながらも、恐るべき群れの待ち伏せの突破に成功する。


 ヒボバンダスのすぐ隣をスラッシャーピラノが泳ぐ。


 ヒボバンダスのクルーたちは、スラッシャーピラノの正体を知っているので緊張が走る。


 スラッシャーピラノにパイロットはいない。


 極限まで闘争本能を引き出し、野生のままに戦わせるだけのメカだ。


 帝国軍が採用できない、反乱軍独自のシステムだ。


 システムと呼ぶのもおこがましいが。


 本能の制御は反乱軍が勝っている。


 だが調教をしているわけではない。


 無人兵器の正体については、とても厳しく守られているので、艦隊の誰も知らない。


 とはいえ戦況を左右する決戦兵器は証明された。帝国軍を追い出せる可能性がある、絶対に守るべきものだ。


 艦隊が陣形を組みなおす。


 ガンダラクシャまであと数日だ。

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