ウイナ音楽院からの誘い
「メロディをウイナ音楽院の特待生で受け入れたいと?」
「ええ。もちろん、厳しい試験はあるわ。13曲も演奏テストがあるそうよ」
「それはまた......。だが、どうしてメロディに?」
「この前、ギャエルがメッツォに来ていたみたいで、メロディに興味を持って学長に薦めたらしいの」
ギャエルは今、トリアやディートマルなどで人気のバイオリニストとして演奏活動をしている。その関係でウイナ音楽院とのやりとりもあるのだ。
「ギャエルが?あいつ、メッツォに来てたならこちらに顔を出せばいいのに」
「仕事が忙しかったみたいよ」
「偉大なるバイオリニストになったんだな」
「ええ。彼は在学時から光っていたものね」
メロディが出演した演奏会に、ギャエルも来ていたらしい。彼と直接会えなかったのが惜しい。
後日、メロディに特待生試験の話をすると、メロディは非常に乗り気だった。
「ママは、もう少し大人になってからでも遅くないと思うのだけど」
「でも、パパはチャンスがあるなら留学するべきだって言ってる。私もそう思う。知らない世界を知りたい」
(私は、その知らない世界以外のことも知って欲しいのに…)
恵まれた環境であるとはいえ、外国ではまた条件が違ってくるからうまくいくとは限らない。不安であった。
あれからレウルスは子爵になったが、外国ではまだ評価されるほどの貴族だとは思われないだろう。
「ウイナ音楽院に新しくできた特待枠はより厳しい指導になるわ。パパともなかなか会えなくなってしまうのよ?」
「でも、ママは一緒に来てくれるんでしょう?」
そう聞くメロディの様子からも、彼女がメッツォを去ることをそれほど惜しんでいないのが分かった。
「子どもだから怖いもの知らずというか、あれは誰に似たのかしら?」
「誰だろうな」
「それよりも、メロディが試験を受けて合格したとして……あなたはボロゴに所属しているのだから、溺愛している娘にも簡単には会えなくなるのよ?」
「分かってる。君にも」
レウルスが額にキスをしてくる。
「それに、トリアには
(アードルフのことを言っているのかしら…)
彼とは手紙を送り合ってはいたが、ここのところ途絶えていた。
「フローレンスたちも子どもが生まれてからは忙しいみたいね」
「あいつらがどうしているか気になるな」
レウルスとそんな話をしていたら、メロディの受験日に関する知らせが届いた。
まだ、申込みもしてないはずなのに!と焦ったら、なんとメロディが勝手に出願をしていたのだった。
試験は半年後である。
「半年しかなくても、私やる!」
メロディは早々に試験を受ける気、満々であった。
彼女が本気なのだと分かると、レウルスが言った。
「メロディ、特待生試験はかなり厳しいそ。子どもであっても優遇はされない」
「私、そこまで子どもじゃないし」
「そういうところだ。向こう見ずなところとかだな........ぶつぶつ」
レウルスがもっともらしいことを言っているが、メロディは聞く耳を持たないようだ。
「パパは私の味方なの?ずいぶんと冷たいわ!」
「......確かに、パパはそういうところがあるわよね」
「こらルイーズ!オレは決して冷たくない!言葉が足りないだけで......! 話がズレたが、パパはなにがあってもメロディの味方だ。お前がやりたいことは全力で応援する。だから、やるなら命がけで臨むんだ」
「ちょっと、あなた!“命がけ”なんて冗談でも言わないで!!」
ルイーズが尖った声を出すと、レウルスがビクリとした。母となったルイーズは言う時はビシッと言うのである。
「すまない......とにかく、パパも帰って来たら練習に付き合うから。昼間はママにも見てもらいなさい」
「分かった」
特待生試験では、技術と即興など多くの条件が求められている。
(私の在学時は特待生試験は無かったからハードルも上がっていてとても難しいのでしょうね)
母校を受験する娘が心配になったのだった。
……そして、あっという間に5ヶ月が過ぎた。
試験の1ヶ月前にはトリアに来て、以前使っていた屋敷に落ち着いていた。
フローレンスに連絡を取ると、驚いたことにコンラートとアードルフは講師として音楽院で働いているというではないか。
(しかも、審査にアードルフも加わる予定だなんて……そんなの、聞いてないんだけど!?)
なんという運命なのだろう。今はお互いに結婚しているとはいえ、かつての恋人が教師として在籍しているとは......!
(それより、今はメロディのことの方が大事だわ!)
ルイーズはいろいろな意味でソワソワした期間を過ごしたのだった。
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