◆第16章 新しい時代の幕開け

10歳の天才バイオリニスト

今、メッツォでは、とある少女が“10歳の天才バイオリニスト”として話題になっていた。


彼女は幼い頃からバイオリンに親しみ、数々のコンクールで実績を積み上げている。


愛らしい容貌と艶やかなダークブラウンの髪の毛が魅力で、早くもオーケストラと共演するなどなにかと注目されていた。


「あれだけの楽譜が頭に入るだけでスゴイよ。メロディはいろいろと恵まれているな」


ニコニコしながら話しているのはレイニーだった。


「まさか、私たちの子がここまでになるとは思わなかったわ」

「いや、オレはメロディならばできると思っていた」

「お前の自信はどこからくるんだ、と言いたいが実際、メロディはスゴイからな」


フルンゼ楽団の新しい練習場でレイニーとレウルス、ルイーズと話していた。今日は、メロディがフルンゼとの共演に向けて練習しに来ている。


「うちと共演してくれるなんてありがたい限りだなあ」

「兄貴、あんまりメロディの前でそんなことを言ってくれるな。思い上がったら良くない」


メロディは先ほどからフルンゼのメンバーと楽しくおしゃべりをしている。身内のいる楽団なので、彼女にとってリラックスできる場所なのだ。


「メロディ、パパは厳しいな?」


レイニーが声をかけるとメロディが反応した。


「うん、パパはちょっとコワイ」


メロディが言う。


「こら、メロディ!パパはお前が大事だから甘い言葉ばかりを聞かせたくないんだ」


レウルスがちょっとムキになっている。


「レウルスがこんなにものすごい子煩悩なパパになると思わなかったわ」


メロディが小さい頃、泣いていればすぐに抱き上げてあやしたし、使用人がやるような世話まで進んでやろうとしていた。


もちろん、音楽家らしくまだメロディがお腹の中にいるうちからチェロの音もバッチリ聴かせていた。ルイーズもバイオリンを弾いていたので変わりないが。


両親が音楽家ならば“まあそういうものかな”とは思っていた。


そして、レウルスはメロディが成長するにつれて、立派な教育パパへと変身したのである。


彼は、メロディが4歳になる頃、ジュニアバイオリンコンテストに出場させた。


結果はぶっちぎりの優勝であった。


これには父やレイニーも大絶賛。彼らは社交界でもどこでも自慢しまくったらしい。


『やっぱり2人の子には才能がある!メロディには、華やかな未来を与えてやらねばな!』


父など、そう息まいて可愛い孫娘のために、全力で後押しすることを早々に宣言したのだった。


両親、叔父祖父母も音楽家とくれば、自明だったのかもしれない。


(私は、娘にはもっと気楽に生きて欲しいと思ったのだけど.......)


確かにバイオリンは弾ける方がいいとは思う。だけど、音楽の道に本格的に進ませるのは苦労を知るだけにあまり勧められるものではない気がしている。


(でも、レウルスとしては才能あるメロディをもっと輝かせたいと思っているのよね)


自分だって音楽で苦労していたのに、娘に率先して道を導こうとするなんて驚きを隠せない。


だがすでに、メロディはメッツォの新聞でもしばしば取り上げられたせいで、かなり知られる存在になっている。



──先日、ルイーズとメロディの親子アンサンブルを初めて披露した。


ヘンリーとリリアンの娘であるオレリアとメロディは年齢は少し違うが、女の子同士というのもあって仲がいい。


だから、彼ら親子との付き合いも増えていた。そんなわけで、王宮での演奏会も開かれた。


オレリアもメロディに影響されて、バイオリンをやりたいと言い出したことがあったそうだが、ヘンリーに“練習をたくさんしなければならないのだぞ”と、言われて早々に諦めたのだとか。


最近は、ヘンリーが剣の練習に付いて行って剣術を習っているらしい。


ヘンリーの娘も自分の娘も、それぞれの親と似たような道に進もうとしていたのであった。


「......それにしても、メロディはとても恵まれた環境ね。お金もあるし、両親含めて親族は音楽家がそろっているもの」

「ああ。かなり環境は大きいな。だが、もてはやされるのは子どもだからというのもある。だから、大人になる前にもっと実力を付けられるようにしてやらなければならない」

「あなたは本気でメロディをバイオリニストにしたいの?」

「メロディの才能を確信している。だからだ」


(以前は、“才能よりも継続することの方が大事”と、言っていたような気がするけど?)


心の中で突っ込んだが、娘を信じる父の姿はとても微笑ましい。



──レウルスは変わらず、ボロゴの首席チェリストとして忙しく飛び回っている。それでも、メロディの指導は欠かさなかった。


ルイーズはといえば、メロディが生まれてからマイペースに音楽活動をしている。そうせざるを得ない状況もあったのだが。


自分の活動は思うようにできないけれど、娘が、自分の成し得なかったことを叶えてくれているのだと思うと、素直に応援する気持ちになれた。


そんな折、かつて留学していたウイナ音楽院からとある手紙が届いたのだった。

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