誓いの鐘が鳴る日
カルロの新政権がようやく安定し始めた頃――待ちわびていた、レウルスの受爵がついに発表された。
「メッツォの音楽文化を高めたという理由での受爵だが、実際のところは新政権の策略が絡んでいると思うと、複雑な心境ではあるな」
レウルスがボヤいている。
「でも、それでも正直、嬉しいわ」
「もちろんだ。欲しくてたまらなかった」
レウルスの受爵には多くの賛成の声が挙がったが、古株の貴族たちからは反発する声も挙がっていた。
“音楽しか取り柄のない家”と、いまだに嘲る者がいるのである。
だが、政治に影響力のある公爵とカルロを支えるヘンリーを敵に回すのは得策ではない、ときちんと理解した者は多かったらしい。
「ふん、レウルスの受爵をジャマなどする者など、私が許さん」
「僕もです。ルイーズの夫はすなわち、我が家の家族ですからね」
父と兄が頼もしい。
彼らがニラミをきかせてくれたおかげで、受爵の式典は滞りなく行われた。
王城の広間で行われた式典にはレウルスの家族も出席し、誓約と剣の授与がされるとレウルスの父母が涙ぐんでいて、ルイーズもつられて涙ぐんだ。
爵位とともに、わずかながらも領地が与えられた。どうやら、音楽家という特異な立場を考慮して比較的負担の少ない土地を選んでくれたようだった。
「いやあ、まことに良かった」
父は上機嫌だった。
初めて対面したレウルスの父母とレイニーをそのまま屋敷に招くことになり、今はホームバーティーの真っ最中である。
「クリスティアンもこのタイミングに戻って来られて良かったわ」
「ぜひとも受爵の式典にも出席したかったけどね。まあ、間に合いそうになかったから仕方ないけど」
クリスティアンは午前中の式典の最中、トリアに戻って来ていた。一足先に屋敷に着いて久しぶりにマティアスと2人きりの時間を過ごしたらしい。
「レウルス、おめでとう。これで君も爵位持ちとなったわけだな」
「男爵だけどな。でも、なにもないよりはずっといい」
「きっと、君のがんばり具合でもっと爵位が上がるかもしれないぞ。なんたって君は新しい時代の象徴なのだからさ」
「そうなることを望んでいる。ルイーズのためにも。家族のためにも」
ルイーズも側にいて彼らの会話を聞いていたが、クリスティアンのことが気になった。
「クリスティアンの方はどうなったの?」
「僕?僕はきちんと自分の主張を通すためにいろいろとやってきたさ。君たちみたいに社会的には夫婦になれそうにはないけれど、一緒に住むつもりさ」
「メッツォで探すのか?」
レウルスが言うと、クリスティアンが肩をすくめる。
「なんだ、違うのか?」
「ディートマルにマティアスと戻ろうかと思ってる。実はもう屋敷も見つけて購入済さ。というわけでルイーズ、悪いがマティアスを連れて帰りたいんだ」
ルイーズが驚いてマティアスを見ると、彼も申し訳なさそうな顔をしていた。
「その表情からするに、もうマティアスも決めたのね?」
「うん。ごめんね。僕はクリスティアン様と一緒にいたい」
「分かるわ。大事な人とは離れていない方がいいもの」
「寂しくなるな」
「一生、会えなくなるわけじゃない。君たちの結婚式までは滞在するつもりだよ」
「ぜひ、そうして。お父様がさっそく教会に話をつけたのよ」
父はメッツォでも一番の大きさである教会でルイーズとレウルスの結婚式を行おうと多大な寄付を教会に行ったらしい。
しかも、父は日の良い日に結婚式を挙げさせようとした結果、その日は下級貴族の結婚式が行われるはずだったのにお金で物を言わせて譲ってもらったみたいだ。
「お父様は強引だから…」
「う~ん、でも充分なお金は渡しているのだろうし、国民全体が注目している結婚式でもあるから断りにくいだろうね」
「申し訳ないわ」
「でも、その分、君たちは早く夫婦になれるじゃないか」
クリスティアンが明るく笑って言う。
「そう言ってもらえると、少しは気が楽になるけれど」
………受爵してからスピーディーに結婚式は1ヶ月後に行われた。
出席者は家族や親族以外にも王族、フルンゼの仲間まで大勢が呼ばれ、大規模であった。
コルネ公爵家では教会前の広場で数日に渡り、食べ物を振る舞ったからちょっとしたお祭り騒ぎになったくらいである。
教会に入る前、2人でこんな会話をした。
「こんなに多くの人の前で愛を誓うのだから、もう後戻りはできないわね」
「当たり前だ。オレたちはずっと一緒だ」
緊張しながら父の腕に手を携えて祭壇の前まで歩いて行くと、とても優しく微笑むレウルスがいて幸せな気持ちでいっぱいになったのだった。
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