初めて夫婦として迎えた夜

結婚式の夜、つまり初夜がやってきた。


「とうとうこの日がやってきましたね!」

ってなによ。変な言い方しないで」

「変ではありません。貴族にとっては特に意味があることですし」

「もう、そういうのはいいから」

「はいはい、照れてらっしゃるのですね。さ、お仕度しましょう」


ジーナを筆頭に、数人がかりで初夜に向けて支度をさせられる。


ウェディングドレスを脱いだルイーズは、バラの花びらを散らした浴槽へと案内された。


バラの香りがとてもいい。


「さすがに今日は贅沢ね」

「いつもは真珠のパウダーを浴槽に溶かしていますが、本日はバラのオイルとバラの花びらで心も身体を磨きましょう」


ジーナは先に結婚しているのもあって、先輩としていろいろと気遣ってくれる。


「ふわあ。気持ち良くて寝てしまいそう」

「お嬢様が眠ってしまったら、レウルス様が泣きますよ」

「……泣くわけないわ。ただ、眉間にシワがたくさんできるだけよ。あ、でもお説教をくらうかしら」

「本当にそうするかはともかく、よく分かってらっしゃるんですね」

「彼とは何年も本音で話してきたわ。彼がどんなことを言って、どんなことをするかは大体想像できるわ」


予想もしなかった言葉に傷ついたこともあったが、彼は、”もう誤解させるようなことは言わない”と、約束してくれている。だから、彼が心を閉ざさない限り、きっとうまくやっていける――そう信じられる。


「ねえ、ジーナ。先に結婚した先輩としてアドバイスして欲しんだけど……」


ジーナにコッソリと尋ねる。


「なんでしょう?」

「夜のことについて教えて」


一応の知識はあったけれど、詳しいことを知らないので尋ねた。


が、ジーナは具体的なことは教えてくれなかった。


「もう、どうして具体的に教えてくれないの? 私がなにか失敗したら恥ずかしい」

「その......人によって睦み合い方も違うでしょうし、私の話すことがお役に立つとは限りませんので」


(彼が経験なしなのは以前、確認したから知っている。だとしたら、私がしっかりしていないとダメかもしれないじゃない)


真面目なルイーズはそう思っていた。


..........レウルスと共同で使うことになる寝室に足を踏み入れると、彼はまだいなかった。


(女性の方が後から来るのが定番だった?)


仕方がないからソファに座って彼を待った。


「落ち着かない。本でも持って来ましょう」


本を持ってこようと部屋の扉に手をかけた瞬間、扉が開いた。


「どこに行こうと?」


濡れた髪の毛を拭くレウルスがいた。


「えーと、本を取りに行こうと……」

「本を読むヒマはないぞ」

「あなたが来なかったからよ」

「遅くなってすまない。ちょっといろいろあったんだ」

「いろいろって?」

「まあな」


なんだか教えてくれないみたいだ。


「とりあえず……ワインでも飲む?」

「そうしよう」


グラスにワインを注いで乾杯すると、レウルスは3口ぐらいでワインを飲み干した。


「早くない?」

「……ルイーズが綺麗で緊張してるんだ」


レウルスの言葉にドキリさせられる。自分もとても緊張していた。


彼とは長く一緒にいるが、昼間の服装以外で2人きりで一緒にいるのは初めてだから。


「こうしているのが夢みたいだわ」

「夢じゃない。現実に叶ったんだ」

「ええ。多くの人の支えと運があって実現できたものね」

「だから、オレたちは幸せにならなくちゃいけない」

「......ならば、それを証明してみせて」

「ああ、分かった」


レウルスはグラスをテーブルに置くと、ルイーズをいきなり抱き上げる。


「え、抱っこ?恥ずかしいわ」

「証明して見せろと言ったのはルイーズだぞ」

「そうだけど.....!」


レウルスは軽々とルイーズをベッドまで運んだ。


ゴロン、と寝かされる。彼の顔がすぐ近くにあってドキドキした。


「........もう、ワインはいいの?飲み足りなくないの?」

「酔わせて寝かせるつもりか?その手には乗らないぞ」


彼は冗談ぽく言うと、唇を重ねてきた。


突然、始まったそれは、心配をよそにスムーズに進んでいく。


「........慣れているように感じるわ。どうして?」

「さっき、いろいろあって遅れたと言っただろう?勉強してきたんだ」

「勉強してきた?どこで?誰と!?」


ルイーズが飛び起きたので、レウルスのおでこに勢いよくぶつかった。ゴチン!と音が鳴る。


「いった~い」

「いてて......なにやってる。怪我してないか?」

「たんこぶができたかもしれないわ」

「冷やすか?」

「大丈夫。それよりも、勉強って?」


どうしても気になる!確かめたい。


「……デニスに。情報をもらってきたんだ」

「え、デニスに?」


(デニスとジーナのあれこれを、ここで活かそうというつもり?)


冷静に考えたら......ものすごーく恥ずかしくなった。


「レウルス、あなたは絶対に私たちの話をデニスに話したらダメよ!いい?ぜーったいよ!?」

「当たり前だ。デニスだってジーナに知られたら殺されるって言ってたからな」


なかなか始まりそうで始まらない夜だった。

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