まぶしい命の誕生と祝福の裏側

カルロが王となってから3ヶ月が経つ。


そして、ヘンリーとリリアンの子どもが生まれた。


彼らの子は、リリアンソックリのピンク色をした姫君で王室は歓喜していた。


国民もお騒がせ王女が母になったことを喜び、メッツォはお祝いムード一色となっている。


新王に対する不満を持つ古き人たちも、さすがにおめでたい出来事でようやく大人しくなった。


………時同じくして、コルネ公爵家でも新しい命の誕生でてんやわんやしていた。


「お兄様とモニカ様のところも同じタイミングで生まれるなんてね!」


コルネ公爵家では早くも新しくメイドを雇おうだとか、赤ちゃん専属の医師を雇うとか、皆が落ち着かない毎日を過ごしている。


「赤ちゃんて、とっても可愛いのね」


兄の生まれたばかりの子は“カミーユ”と名付けられた。


初めて赤ちゃんを抱っこさせてもらったが、顔も手足も全部が小さくて、この世のものと思えない愛おしい存在であった。


レウルスは見ていただけだが目を細めているところを見ると、子どもが苦手ではないらしい。


勝手なイメージ、レウルスは子どもがキライなのではと思っていただけに、これには少し驚いた。


「レウルス、カミーユがあくびをしたわ」


ルイーズがいちいち、レウルスにカミーユが“親指を口にくわえた”とか、“口をもごもごさせた”とか、報告するので彼は苦笑いをしている。


「ルイーズは子どもが好きなんだな」

「自分でも知らなかったわ。子どもが好きだなんて。嫌いではなかったけど、身近に接することが無かったから、こんなに愛おしいと感じるなんて分からなかったの」


ルイーズはカミーユを見つめながら言う。彼女は、すっかりカミーユに夢中であった。


きょうだいが初めてできて抱っこしたがる姉のようなそんな気持ちになってしまう。


「はぁぁ。カワイイ。本当にカワイイ」

「自分の子ならもっと可愛いじゃないか?」


あんまりルイーズが“カワイイ”を連呼するので、ルースが笑って言っていた。


(子どもね……。私にはまだまだほど遠い存在だと思っていたけれど、こうして抱っこすると羨ましく思ってしまうものね)


簡単に将来感がゆらぐ自分に、なんとも情けない気持ちになる。


(だけど、たまらなく新しい命がまぶしい)


……カミーユが生まれて2週間ほど経った頃、屋敷の廊下を歩いていると、テラスで空を見上げているマティアスの姿を見かけた。


最近は、カミーユに夢中で彼と練習以外であまり話していなかった気がする。


「マティアス、どうしたの一人で?」

「ああ……。クリスティアン様のことを考えていたんだ」

「彼、いつ戻って来るのかしら?」

「クリスティアン様は、妻を娶るように言われているんだ……」


貴族ならば妻を娶り、子をなすことは義務のようなものだ。クリスティアンとマティアスのような男性カップルの未来は……明るいとは言えない。


「彼はあなたを愛して大事にしているわ」

「そう信じているし、これからもそうだと思いたい。でも……、身近に赤ちゃんが生まれて皆が喜んでいる姿を見ると、自分はなにをしているんだろうとか、つらくて」


マティアスは泣いていた。


「マティアス…。価値観は人それぞれだわ。クリスティアンと手紙のやりとりをしているのでしょう?」

「うん…。“生涯、独身を貫くといって後継者を選んでいる最中だ”と、書いてあった」

「あなたのことをきちんと考えてくれているじゃない」

「だけど、僕がいなかったらそんな大変な決断をさせなくて済んだんじゃないかって思うんだ」


嗚咽するマティアスをルイーズはどうしたら良いか分からなかった。


「マティアス……、抱きしめても?泣きたい時は誰かのぬくもりを感じるだけで違うわ」


あくまで自分の中での経験だが、言ってみた。


「ありがとう」


そう言うと、マティアスはルイーズを抱きしめるようにして泣いていた。


(抱きしめるつもりが抱きしめられているカタチになっているわね)


背中に腕を回して彼の背中をトントン叩く。


「あなたは一人じゃないわ。自分を責めないで」


激しく泣いていたマティアスが少し落ち着いてくる。


「甘えて。こんな時は」

「.........ダメだな。それは」


いきなり、レウルスの声がしたと思うと、ベリベリとマティアスを引き剥がす。


「レウルス、なにをするの?」

「なにをする、とはこちらのセリフだ。どうして、マティアスと抱きしめ合っている?しかもかなりの密着度だった」


レウルスの眉間にシワが寄っている。


「それには理由があって……」

「君は隙だらけだ。いつも。だからクレメンテとも……」

「ゴメン。僕が泣いていたから彼女は僕を慰めてくれていたんだ」


真っ赤な目をしたマティアスがレウルスを見る。


レウルスはひどい泣き顔のマティアスの顔を見て黙った。


「なにもルイーズを抱きしめなくても泣けるだろう……」

「そうだね。でも、彼女のおかげで少し元気が出たよ」


そのままマティアスは部屋へと引き上げて行く。


「一体、なんでマティアスは泣いていたんだ?」

「クリスティアンのことよ。彼、妻を持つように言われてディートマルに戻っているの。でも、彼は自分の跡継ぎを探して自分は結婚しないと宣言したから自分のせいではと、マティアスが悩んでいたのよ」

「まあ、そんなところだろうとは思ったが……」

「予想したなら、見守ってくれたらよかったのに」

「そこでなにかが生まれたら困る」


レウルスは頑としてそこだけは譲れないと主張したのだった。

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