レイニーお兄様は今日もキラキラ
今日もレウルスはボロゴの練習へと出かけて行った。
「マティアス、たまには私たち2人の練習だけではなくて、新しい風を求めにフルンゼ楽団に顔を出してみない?」
「いいね。楽しそうだ」
そういうわけで、朝食後にフルンゼの練習場を訪ねてみることにした。あらかじめ、訪ねる前に使用人にメモを持たせたからレイニーにはすぐに伝わるはずである。
使用人が返事を持って帰ってきたところによると“ぜひ”とのことで、喜んで出発した。
「せっかくだからお土産も持って行くことにしましょう」
広場にある話題のスイーツ店で菓子を購入した。楽団員の数が多いため、ルイーズがまとめて買うと、棚がごっそり空になってしまった。
「数日前から計画しておけば良かったわね。急に品物が無くなったら、商売が困るでしょう?」
「いえ、ルイーズ様がお求めになったとなればこちらも宣伝になりますので」
「まあ、私ってそこそこ有名だったのかしら?」
「それは、もちろんです。美しいバイオリニストとして有名です」
さすがに店の者は元ヘンリーの婚約者だとは言わなかった。
「また、来るわね」
ルイーズは、店員に気さくに声をかけると店を出た。
「やっぱり、君は有名人だな」
マティアスが気後れしたように言う。
「実際は殿下の婚約者だったというのが、大きいと思うわ」
「そんなことばかりじゃないと思うよ。あの店員が言っていたことは正しいんじゃないかな」
「マティアスは本当に優しい人ね」
話しながら歩いていると、いつの間にかフルンゼの練習場の近くに来ていた。馬車は広場で降りたあと、先に商会の方へ行くよう指示してある。少し後ろには、きちんと護衛が付いてきているので、危険の心配はない。
練習場の扉をノックすると、すぐに扉が開いた。レイニーがニコニコしている。
「レイニーさん、おはよう。突然、訪ねてしまってごめんなさいね」
「いや、メモをくれたじゃないか。さ、入って」
練習場に入ると独特な香りがある。落ち着く空間だった。
マティアスは初めて練習場に足を踏み入れたから、まわりをキョロキョロと見ていた。
「どちらにせよ、訪ねてくることもあるかなと思っていたんだ」
「どういうこと?」
「レウルスから言われていたから」
どういうことかと尋ねると、最近、ルイーズが悩んでいることを話したみたいだった。
「レイニーさんにとはいえ、悩みを勝手に話すのはひどいわ」
「詳しいことを聞いたわけじゃないよ」
「それでも.......」
「マティアス君との活動のほかにも活動の幅は広げた方がいい。どれがチャンスになるか分からないからね」
レウルスはフルンゼでの活動について積極的には勧めなかったが、ルイーズが訪ねることがあったならば力になって欲しいと頼んでいたのそうだ。
「レイニーさん、ごめんなさいね。イヤな言い方をしてしまって」
「気にしないで。音楽家に限らないけれど、不安になることも多々あるもんだ。オレにも気軽に相談してよ。あとさ、ずっと前から思っていたけれど、オレのことは“レイニー”って呼んでよ。オレも君のことを“ルイーズ”って呼び捨てにしちゃってるわけだし」
レイニーには楽団長をしていることもあって敬意を払って呼び方は気を付けていたつもりでいた。
「分かったわ。では、さっそく親しみを込めて......レイニーは例の伯爵令嬢とはどうなったの?」
「密やかに交際中。悲しいことに認められていないよ」
「そうなのね……」
「でも、レウルスのおかげで明るい希望を持っているよ。オレもこの楽団をしっかりと大きくしていかなくちゃ」
レイニーは楽団長として皆の活躍できる場を統括する立場にある。自分よりももっと責任ある立場だった。
(私一人、モヤモヤしていたけれど、レイニーはもっと頑張っているわ)
「レイニーってステキな人ね」
「お、今さらオレの魅力に気付いた?」
「ずっと魅力的だと思っているわ。キラキラしていて」
「そう。レウルスよりもスタイリッシュで気が利くしね」
「くすっ。そういう前向きなところもいいところね」
「ハハ。レウルスが聞いていたら“兄貴、頭がおかしいんじゃないのか”なんて言われそうだ」
こんなことを話していて、ハッとした。
(そういえば、悩みのことばかり考えていてレウルスとのことを話すのを忘れていたわ)
「あの、レウルスから私たちの将来のことをどのくらい聞いている?」
「おおよそは。そこの彼は知っているのかな?」
先ほどから大人しく話を聞いているマティアスを見てレイニーが言う。
「彼は分かっているわ」
「ルイーズが家族になるかもしれないなんて不思議な気持ちだ」
「ええ。私も。将来、レイニーお兄様って呼ぶことになるのかしら?」
「いや、普通にレイニーって呼んで欲しいな。なんだかオッサンになった気分になる」
「オッサンだなんて、おかしな言い方。ふふっ」
「オレも幸せになれるといいなあ」
「僕もです」
それぞれが、未来にささやかな希望を抱いていたのだった。
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