友人たちの旅立ち
クリスティアンがディートマルに戻ると聞いて、ある人物も国に帰ると言い出した。
なんとクレメンテである。
「クレメンテまでどうして帰るなんて言うの?」
「ディートマルやトリアの印象が回復しつつあるとは言っても、メッツォでの活動は難しいだろうなと思っていたんだ。それに、ここにずっといるのはつらいなと」
「つらいってなにが?」
「君は鈍感だよね」
クレメンテに言われて、考えてみるが心当たりがない。
「君はいずれ結婚する。オレも伴侶が欲しいなと思ってるよ。トリアに戻ったら、音楽を続けながら本格的にパートナー探しをしたいな」
「そうなのね。分かったわ」
自分はまだ若いと思っていたが、まわりに子どもを持つ親になる人が増えると、クレメンテも気にしたのだろう。
(クレメンテはあまり結婚とか考えているようには思わなかったけれど)
「そう、またいずれあなたと一緒に活動したいわ」
「そうだね。いつかやろう」
クレメンテとルイーズとしばし抱き合って別れを惜しんだ。
………クリスティアンとクレメンテは数日後に帰郷したのだった。
急に人が減った屋敷は寂しくなった。マティアスはもともと大人しいし、彼自身も恋人のクリスティアンと離れて寂しそうだ。
レウルスが帰宅してきた。彼は父の希望もあって、結婚したとしてもこの屋敷に住むように言われている。
「レウルス、ボロゴでの活動は楽しい?」
「そうだな。やりがいがあるよ」
「そうよね……」
「ルイーズ?」
「私、研究院にまだ籍があるでしょう?急がないならば一時的にトリアで過ごしてもいいのかな、なんて少し考えたりしてしまうの。マティアスもクリスティアンと離れて寂しそうだし」
ルイーズの言葉にレウルスが真剣な表情になる。
「そこに座って話そう」
ソファに対面に座ると、話し合いに突入する。
「今のルイーズの言葉を聞いて、少し前のオレと同じ気持ちになっているのだなと思った」
「そうね。少しでも実績が欲しい、チャンスをつくらなくちゃと考えてしまうのよ。あなたがボロゴに所属して素晴らしい道を歩んでいるのだと思うと、いってもたってもいられなくなるの」
勝手なことを言っていると分かりつつ、心境を吐露した。
「人生はこれではなくてはならない、なんてことはないのだと思う。といっても、オレはルイーズと共に一緒にいたいという気持ちは変えられなかったが」
「レウルス……」
彼は自分と一緒にいるためにも懸命に努力してきたのだと思うと、トリアに戻って活動するなんて普通ならば言えない。だけど、なにかカタチにしなくてはという焦りがどうしても消えない。
「自分がどうしようもなく不安に駆られているのは分かっているわ。お父様もお兄様も、今の話を聞いたら反対するに決まっているのも分かってる」
「そうだろう。オレだって反対するよ。オレは、ルイーズとは少しでも離れたくない。ただでさえ、音楽家というものはお互いに離れて活動することも多い。ルイーズがトリアに行ってしまったら、オレたちはほとんど会えないことになる」
「分かっているわ。現実的ではないということは」
多少の実績があっても常にチャレンジしていかねば、人には評価されない、認めてもらえない、そんな気持ちが自分を憂鬱にさせていた。
静かな風がカーテンを揺らしている。
(レウルスは確固たる立場を手に入れて、不安がないわ。だけど、今の私は――)
どうしても比較してしまう自分がいた。
.......マティアスと一緒に練習する時は必然と、そんな悩みについて話す機会が増えていた。
彼も音楽だけでなく、恋人が貴族の男性だということもあって自分よりもより深刻な悩みを持っていると感じている。
(自分だけが苦しいわけではないのよね)
もがいてもがいて、それがやがてカタチになって、実績へとつながるのだろうと信じたいルイーズであった。
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