アードルフから届いた幸せに満ちた手紙

トリアから手紙が届いた。


送り主はアードルフである。


彼ともフローレンスと同じように手紙のやり取りをするようになっていた。


(妻のいる人に手紙を書くのはどうなのだろう、と思っているのだけど……)


彼から手紙が届くと返信というかたちで書いている。


(一度、しっかり注意した方がいいのかしら……?)


そう思いながら手紙を開くと、ちょうど気にしていたことが書いてあった。


≪ルイーズへ


元気にしている?君からは手紙をもらわないから、こうして僕が書くことになるのだけど。たまには君からも書いて欲しいな。


きっと君のことだから、おそらく妻のことを気にして書くのを控えているんだろう。もし、そうなら気にしなくても大丈夫。


というのも、君に手紙を書く時にはヴィヴィアーヌにも内容を見せているからね。彼女もかつての恋人と手紙のやり取りをしているし。僕らはお互いを尊重している。


話は逸れたけど、もうすぐそんな僕たちの元に天使が舞い降りる予定なんだ。男の子でも女の子でも生まれてきてくれるがとても嬉しい。この感動を君にもどうしても伝えたくて。


どうしても、子どもが生まれるとなると浮かれてしまうね。僕が父になるなんて、信じられなくて奇跡のようだよ。


そんなこともあって、今は絶賛、我が子のために作曲中なんだ。


作曲と言えば、トリアではこうしたメモリアル時に曲を作るのが流行っているよ。音楽家にとってはいいチャンスだと思う。


それでは、子どもが産まれたらまた報告するね。  アードルフ≫


「アードルフのところにも、もうすぐ子どもが産まれるのね」


お祝いにはなにを贈るのが良いだろうかと考える。


考えたが、子どものいないルイーズはなにを贈るべきかよく分からない。


頭を悩ませていると、扉のノック音で思考を断ち切られた。


「ルイーズ、ちょっと相談してもいい?」


ノックしたのは、クリスティアンだった。マティアスもいる。


「あら、2人そろってどうしたの?どうぞ、そちらに掛けて」


ソファへと勧めると、ジーナにお茶の用意をしてもらう。


「改まってどうしたの?」

「実は、ディートマルの実家から帰って来い、と言われていてね。僕だけしばらく帰国することになるのだけど、マティアスの面倒をお願いできるかな、という話だったんだ」

「それは全く構わないわ。そもそも、私とマティアスはデュオを組んでいるのだし」

「そう言ってくれるなら有難いし安心だ」


クリスティアンが呼び戻されるほどの用事とは、跡継ぎ問題とかそういったことではないかなという気がした。


(下手に尋ねるわけにいかないわね)


その話に触れず、丁度良い話題はないかなと考える。


(あ、さっきの手紙のことを話してみよう)


「そういえばね、アードルフから手紙が届いたの。彼のところももうすぐ子どもが産まれるそうよ」

「彼のところもそろそろ産まれる頃かあ」

「彼のところにお祝いを贈ろうと思っているのだけど、なにを選ぶのが良いのか分からなくて。どういったものがいいと思う?」

「いずれ使うことになるであろう、おもちゃなんかいいんじゃないかな?」

「ああ、そうね。トリアとメッツォの赤ちゃん用のおもちゃも違うだろうし、面白いかも」


しばし、贈り物の話で盛り上がった。


「そうそう、手紙には今トリアではメモリアルにちなんだ作曲が盛んなのですって。音楽家にとってチャンスだと書いてあったわ」

「へえ、それは興味深いね」


クリスティアンはもともと曲作りの基本となる音楽理論が得意で、楽曲分析なども普段から趣味のようにやっている。


「ディートマルに帰ったついでにトリアにも寄ってみるかな」

「ならば、あなたにアードルフにプレゼントを渡すのを頼もうかしら」

「いいよ。僕も久しぶりに彼とも会いたいし。フローレンスやコンラートとも会えるし」

「トリアのことを話していると、懐かしくなるわ」

「懐かしく感じられるほど、トリアに馴染んでいたってことだね」

「そうかも」


すぐにでも行ったり戻ったりできればいいのに、とよく考える。


トリアは解放的で自由な雰囲気が好きだった。貴族間では煩わしいこともあったが。


(ギャエルも元気にしているかしら?)


トリアでの知り合いがかなり多くなったのだなと感じた。


「トリアに行きたくなるわ」

「君はようやくメッツォに腰を据えたとこだろう?」


クリスティアンに言われる。


「そうね。でも、ないものねだりっていうのかしら。惜しむ気持ちがあるのよ」

「確かに。人間って、欲張りだよなぁ」

「欲があるからこそ、いろいろなことが発展してきたのでしょうけれどね」


そうかもね、という話になる。


この時はまさか、予想しないある人の決断につながるとは思っていなかったルイーズであった。

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