カルロ王太子の心中
「あの、なぜ、カルロ様たちが我が家のパーティーに?」
ルイーズの疑問に答えたのはヘンリーだった。
「未来に関する話があって来たんだ」
「未来?」
「そうだ」
いつかあの話していた、新しい世の中に関係することだろうか。
(あの話は、私たちも関係する話だったはず)
チラリとレウルスを見ると、彼と目が合った。が、ケンカ中だったのですぐに目を逸らした。
「まずは、食事を楽しんでから話そう」
カルロに言われて、皆で食事や酒を楽しんだ。話題はリリアンの話になる。
「……リリアン様もここへ来ると言ったの?」
「ああ。だが、身重だ。安静にしているように伝えた」
「リリアン様は怒っているのではない?」
「あの子は、やんちゃよね」
カルロ王子の妻であるミレイアが愉快そうに笑う。
「確かに。リリアン嬢はだいぶ、やんちゃだ」
カルロが同意する。
「それでも、リリアンは母になろうとしています。きっと落ち着くはずです」
「はず、なのね」
ヘンリーが妻のフォローをしたが、ミレイアがまたおかしそうに言った。彼女もまた、他国の姫君であったので、リリアンに遠慮などしていない。なにより第一王子の妻である。
「それはそうと。そろそろ、肝心の話をしようと思うのだが」
カルロが言うと、父と兄のルースが王子たちを別室へと案内した。ルイーズとレウルスも付いてくるように言われる。
「カルロ様、ヘンリー様、お話というのは……」
「これから話すことはまだここだけの話として聞いて欲しい」
皆、神妙な顔でうなずいた。
「父の容態が以前より優れないのは知っているな?.........父は明日には王位継承を早めると宣言するおつもりだ」
王位継承が早まるであろうということは予測されていたが、明日にでも宣言されるとは思わなかった。
「それに伴い、私は早々に政権の安定と国民からの支持を得たいと考えている。ヘンリーが先走って伝えてしまったようだが、私は新しい価値観も取り入れていくべきだと考えている」
カルロ王子は落ち着いた口調で話していたが、最後のところを強調して言った。
「新しい価値観の象徴として、厳選したうえで目覚ましい働きをした者や優れた者に受爵しようと考えている。成果を出せば誰にでもチャンスを得られるという希望になるだろう」
(それはつまり……レウルスのことを言われているのよね?)
ルイーズは思わず息を止めた。隣にいるレウルスもゴクリとつばを飲み込むのが分かった。
「君たちは、私がなんと言うか想像がついているな?そう、レウルスをその対象に考えている」
父が目を見開く。次期王からの直接の言葉はかなりの衝撃があった。
「本当に……私が受爵を?」
レウルスは胸を押さえ、思わずペタリと床についた。心臓が、鼓膜のすぐそばで鳴っているかのように激しく打っている。
ルイーズも思わず腰が抜けそうになって宙を掴んだ。
「おっと、大丈夫か?」
支えたのは運動神経が抜群に良いヘンリーだった。隣でひざをついたまま床に座っていたレウルスは支えられているルイーズを茫然と見ている。
「お前、そんなんでルイーズを守れるんだろうな?お前が受爵するということは“ルイーズを守れ”という意味でもあるぞ」
「わ、分かっております。.......あまりにも驚きで腰が抜けてしまっただけです。もちろん、守ります」
「しっかりしろよ。オレがルイーズを引き取ってもいいんだぞ?ちょうど、ケンカしていると聞いたしな」
「な……そんなことはあってはなりません!」
レウルスが焦って言った。
「ルイーズ、お前はレウルスとケンカ中なのか?」
ルースが口を挟んだ。
「ええ、まあ」
「それは解決できることなのか?」
父が心配して聞く。ちょっとイタズラ心が湧いた。
「……彼は私が勝手だと言って怒っているのです」
「ル、ルイーズ!」
レウルスが慌てる。
父がレウルスを非難するようにジロリと見た。
「どういうつもりだ?」
父と兄が気色ばむ。彼らは短気なところがあった、と思い出して慌てて言う。
「……言葉が足りておりませんでしたわ。つまり、なにが言いたいかというと......彼は、私の過去に嫉妬して少し怒ってしまったということなのです」
ルイーズは小恥ずかしくなって視線を落としながら言った。
「なんだ。......つまり、ノロケか」
ルイーズの言葉に父も兄も“つまらん”という顔をしている。
「ルイーズは姿かたちも心も美しいのだから、恋人ぐらいいてもおかしくはない。仕方ないことであろう」
「はい……正当かと。でも、私には彼女以外に恋人の存在がおりませんでしたので、つい嫉妬してしまったのです」
レウルスがうつむきながら絞り出すように言う。
「え?そうなのか、お前」
ヘンリーが驚いた顔をした。今のレウルスはすっかり痩せて美男子になっているから、少しくらい浮いた話があったのではないかと考えていたらしい。
「なら、仕方ない。特別にルイーズをお前に譲ってやる」
「おい、ヘンリー。大目に見ていれば、いつまでルイーズ嬢を自分のものだと勘違いしたような話し方をする?お前にはリリアンがいるのだぞ?」
カルロに注意されてバツの悪い顔をしたヘンリーだがすぐに言った。
「分かっております。ですが、ルイーズは大切な親友ですので」
「親友は恋人や愛人とは違うからな?」
「はい.....」
しっかりとクギを刺されたヘンリーだった。
…………カルロたちが帰城すると、聞いたばかりの話でルイーズたちは盛り上がった。
「レウルス君が受爵するとなると、私もルイーズの相手として君をきちんと受け入れざるを得ないなあ」
「お父様、そんな言い方しないで」
「これでも良かった、と思っているんだ。早く仲直りをするのだな。私たちはそろそろ皆のところへ戻るとしよう。仲直りの時間くらい、邪魔はしないつもりだ」
父と兄が部屋を出て行くと、ルイーズたちは2人きりになったのだった。
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