初めてした本気のケンカ
レウルスの眉間にシワができていた。
ヘンリーに手を握られていたところを見ていたらしい。
(ああ、変な場面を見られてしまったわ。彼に説明しなきゃ……)
「あのね、レウルス。ヘンリー様は“親友”と呼べる存在に心を許して、ああしただけだわ」
「親友だから手を握ったと?」
「手を握るのは、ちょっとやりすぎかもしれないけれど......」
思わずしどろもどろになる。
「........そもそも、殿下もルイーズも“親友”と呼ぶことがおかしい。幼馴染なら分かるが」
「幼馴染で親友になったのだわ」
「屁理屈だな。どうして殿下を庇う?」
レウルスの機嫌が悪い。いつも以上に執拗に言われた気がして、こちらもなんだか気分が良くない。
「あの人は不器用なのよ。でも、やっと気楽に話せるようになったの。とても嬉しいことだわ」
「だからって手を握らせるのか?笑顔まで向けて.........。殿下に冷たくされたのを忘れたのか?殿下も殿下だ。全てを忘れたように都合よく振る舞うなんて」
ここは街の中だ。誰が聞いているか分からない。彼を黙らせなくては、と思った。
「レウルス、口を閉じて!こんなことを話しても仕方ないわ」
「仕方ないとはなんだ。立場があるからといって好き勝手されるのがイヤなだけだ」
「分からない人ね。勝手と言うならば、あなたも勝手だったわ。忘れていないでしょう?」
かつてのレウルスの行動のことを持ち出すと、彼の眉間のシワが深くなる。
「オレが勝手だというならば君だって勝手だった。オレの気持ちを薄々分かっていただろうに、アードルフと恋人になったのだから」
「あなたが私の気持ちを撥ねつけなければ……本気でアードルフと付き合うことはなかったわ。あの時、傷ついたから彼を選んだのよ」
ルイーズは目を伏せる。
「選んだ、ねえ。いいご身分だ」
(なんてイヤな言い方をするの?私だけに責任があるような言い方も腹が立つわ)
「.......しばらく、あなたとは口をききたくないわ!」
「オレもだね」
彼のぞんざいな態度に腹が立ったルイーズは、皆の元にスタスタと歩いて戻った。
「マティアス、屋敷に戻ろうと思うのだけど、一緒に帰らない?」
「え、僕はクリスティアン様と一緒の馬車で戻ろうかと.......。ルイーズはレウルスと一緒に戻るのではないの?」
「そのつもりだったけど、そうしないことにしたの」
「え.....?」
困惑するマティアスが周りを見ると、不機嫌そうな顔をしたレウルスが離れた所に立っている。
「......ああ、彼とケンカしたんだね。殿下が君に構ったから」
「そう。大人げないのよ、彼は」
「でも、僕もクリスティアン様に同じようなことをされたら妬いてしまうな」
「それは分からなくもないけれど.......」
マティアスにレウルスに言われた嫌味を話したくなったが、そこまでするのは違う気がして黙る。
「とにかく、仲直りは早い方がいいよ」
「……マティアスたちはケンカしないの?」
「僕たちは、あまりケンカはしないけれど、ケンカした時は大抵、僕が黙ってしまうかな。でも、大抵はお酒を飲んで上機嫌になったクリスティアン様が僕を抱きしめて仲直りすることになるんだけどね……恥ずかしいな」
「なんとなく想像がつくわ」
演奏旅行時のコテージでの夜を思い出した。
(心が広いマティアスだから許せるのでしょうね)
「とにかく、仲直りは早めにね」
「……できたらね」
CCやマティアスたちが話で盛り上がっているので、ルイーズは仕方なく一人で馬車に乗り込んだ。レウルスが追ってくる様子はない。
(私を追って来てくれないのね)
もしかしたら、追って来て謝ってくれるかもと思っていたから、寂しくなった。
(私がいけないの?でも、レウルスの言うことはひどかったわ)
ちょっとイジけながら屋敷に戻ったのだった。
…………屋敷では、父と兄がパーティーの用意をしてくれていた。豪華な料理や酒がテーブルに並んでいる。
「今日は、ルイーズたちが世間に広く知られたことを祝って宴を開くことにしたぞ。内輪での宴だが、楽しもうじゃないか」
兄の妻であるモニカも体調が良いというので、彼女とパーティーに向けてドレスを久しぶりに着た。
「モニカ様のドレス姿がとてもステキだわ」
お腹が膨らんできたモニカの体型をキレイに見せるエンパイアラインが、とても美しい。
「胸の下から切り替えがあるふんわりとしたデザインって、とっても可愛いわね」
「あなたのマーメイドラインのドレスもステキ」
「ありがとう。久しぶりに着飾った気がするわ」
モニカと共に居間に向かうと、男性陣もオシャレをしていた。
(皆、なんだか気を使った服装をしているのね)
それもそうであった。なんと、ヘンリーと彼の兄であり王太子のカルロもパーティーに来ていた。カルロの妻であるミレイアの姿もある。
「カルロ様、ミレイア様、ヘンリー様までいらしていたのですね」
焦りながらも優雅にカーテシーをすると、カルロが口を開いた。
「堅苦しくしなくていいよ。内輪での楽しいパーティーだ」
なぜ、彼らが我が家の私的なパーティーに参加しているのだろうと、不思議に思ったルイーズだった。
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