◆第15章 急転直下

緊張と期待が交差する街の演奏会

貴族たちの反応も良いのもあって、ルイーズたちはここぞと次の新しい試みをすることになった。


「緊張するわ。音楽に興味がある人もない人もいる場での演奏なんて……」


ルイーズ&クレメンテのデュオは、週末の広場での演奏会に参加することにしたのだ。


「楽しめばいいのさ。彼らの正直な反応が今後の自分に役立つのだと考えれば、そう悪くない」

「あなたもそういう思いで演奏をしていたの?」

「ああ。フルンゼの宣伝もあったから、とにかく楽しさた伝わるように意識していたな」

「そうなのね。あの時のあなたは本当に楽しそうだった」


広場で身体を揺らしながら、楽しそうにチェロを弾いていたレウルスの姿が浮かぶ。


「オレを見染めてくれてありがとう」

「ふふ、普通は逆よね」

「オレはいつでもルイーズを見染めているよ」

「レウルスったら……」


レウルスがやたらと甘い言葉を言うので、照れてしまう。


「あの~、僕はジャマじゃないかな?」


側にいたマティアスが困っていた。


「ご、ごめんなさい。聞こえていたわね」

「聞こえてるもなにも、僕はすぐ側にいるよ........」


今は、マティアスと週末の演奏会に向けて打ち合わせをしていたところだった。レウルスが聞きつけて顔を出していた。


「本当にごめんなさいね。きちんと、打ち合わせしなくては!.......セットリストには、ディートマルのポピュラーな曲も入れた方がいいと思うのだけどどう?」

「賛成だよ。ディートマルの曲は結構、楽天的な明るい曲が多いから、メッツォの人には目新しいんじゃないかな」

「西側諸国に関心が高まっている今、ピッタリね」


大よそのセットリストを決めると、練習を始めた。レウルスもボロゴの練習へと向かう。


「クレメンテやクリスティアンも参加できたら、もっと面白いものになったでしょうにね」


マティアスの恋人であるクリスティアンは、やむを得ず活動を自粛しているのもあって屋敷でピアノを弾く以外はなにもすることがない。マティアスは自分だけ活動しているのを気にしていた。


王と王妃は、新しい価値観をまだ警戒している。彼らはしばらくは静かにしているしかない。


「気持ち的には一緒にやりたいのはやまやまだけど、慎重にいくべきね」

「うん。まずは、クリスティアン様も興奮するような演奏会にしよう」

「ええ」


………週末の街での演奏会の日がやってきた。


ルイーズはドレスではなく、シンプルな黒いワンピースに着替える。マティアスも黒の上下で襟元をラフに開けていた。


「マティアス~、今日もステキだね」


クリスティアンがマティアスに抱きつく。


「クリスティアン様、いくらお屋敷の中だといっても控えておきましょう。公爵様たちは僕たちの関係をご存じではないですから」

「そうだね、早く堂々と触れ合いたいものだね」


ルイーズたちはもはや、この光景に見慣れてしまっている。誰も気に留めない。


「恋人同士を見ていると、僕もパートナーがいたらいいのになと思ってしまうな」


クレメンテが言うと、クリスティアンが振り返った。


「クレメンテは、恋人を募集中なの?」

「僕は基本的に人見知りだから、なかなか恋人ができないんだ」

「君、トリア人の割に控えめなんだな」

「......僕は自分に自信がない」


しょぼんとしたようにクレメンテが言う。


「そんなことを言わないで!あなたのピアノはとても素晴らしいし、私はあなたのピアノが大好きよ!」


ルイーズが思わず言った。


「ありがとう。君みたいな人が恋人ならいいのに」

「ルイーズはダメだぞ」


レウルスがニラミをきかせる。


「分かってるよ。レウルスが羨ましい」


なんだか話の流れが変な方向になってきた。


「あの......もう、出掛けましょう?準備もあるし」

「僕たちも手伝うよ。それくらいなら許されるはずだ」


CCとレウルスも準備を手伝ってくれたのもあって、会場の準備も滞りなく終えられた。父の力もあって、一番良い立地を確保している。


客席にはCCや父や兄、フルンゼの皆も来て賑やかであった。しかもなんと、お忍びでヘンリーもやって来ている。彼の前後には護衛が張りついていたが、ずいぶんと彼は大胆だ。


周りにはヘンリーに気付く者もいて、皆、チラチラと彼を見ていた。


(来てくれたのは嬉しいけれど、後できちんと注意しておかないと)


...............演奏会は豪華な観客がいたのもあって大成功であった。


『公爵令嬢は本当にバイオリンが上手じゃないか!』

『クラシックギターっていいね』

『王子は公爵令嬢を本気で留学させたくて、婚約者から外したのかもな』


ヒソヒソといろいろな声が聞こえてきたが、おおむね好意的な声が多かった。


演奏が終わるとヘンリーの元へと向かう。


「観に来てくれてありがとう。でも、一国の王子が気軽に来るには危険ではないかしら」

「護衛がいたろ。それに、もともと出歩くことが多かったから、意外とオレの顔は知られている」

「そうなのね......」


学生時代、授業をサボってどこかに行っていた彼は、街散策も日課だったらしい。今になって知ることが多かった。


「でも、もうヘンリー様も父になるのだからリリアン様も心配するわ」

「分かっている。だが、今日ぐらいはいいだろう。ルイーズたちのデュオが有名になるには、こうした活動も必要だからな」

「.........本当にありがとう」


ルイーズは心からお礼を言うと、ヘンリーに手を取られる。


「この手が、あの美しい音を紡ぎ出すのだな」

「え、ええ」


ヘンリーに久しぶりに触れられて、動揺した。


「こんなふうに手を握るのはいけないわ……」

「そうだな」


ヘンリーは手を離すと“またな”と言って、帰って行く。


(急に、ああいうことをされると緊張しちゃうわ)


ヘンリーの乗った馬車が去るのを見ていると、話しかけられた。


「油断も隙もならない方だな」


不満げな顔をしたレウルスだった。

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